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『姫と呼ばないで』第2巻 地下 【日刊マンガガイド】

2015/09/15


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー! 今回紹介するのは『姫と呼ばないで』。

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『姫と呼ばないで』第2巻
地下 KADOKAWA ¥552+税
(2015年8月22日発売)


地味で目立たない、人からはブスと言われる前園美也子。特撮同好会に行けば、紅一点。男子たちが優しく接してくれる。
しかしサークルには、新居屋つづらというぶりっ子ぽっちゃり女子が入部。前園の幸福の園は一気に崩れる。

男子の多いオタクサークルでちやほやされる女子のことを「オタサーの姫」と呼ぶことがある。
「オタサーの姫」は、女子ひとりだからこそ機能する。
前園は姫の椅子に座り続けていた。そこはあまりにももろい砂の城。
2巻は完結巻。彼女の目の前に登場するのは「天然のリア充女子」。

牽制しあうオタク女子同士なら、喧嘩が成立する。相手の価値観が理解できるからだ。
ところがオタク経験を送ってきていない相手だと、物の判断基準が決定的に異なる。
たとえば前園は、みんなの興味を引くために特撮のキャラのコスプレっぽいおしゃれでみんなの前に顔をだす。彼女なりの戦略だ。
しかしオタクに興味のない美人なリア充女子の愛沢野乃花(新居屋の友だち)は、何も考えずまっこうから女子力を振りまく。それだけで男子部員たちはころっといってしまう。

オタク集団にリア充女性が入りこむことを、作中では「生態系のバランスが著しく破壊される」と表現している。
「リア充」という語は「自信を持っている人」と言い換えることもできる。この作品の「オタク」を「自信がなく、趣味で集まる人」と仮に置き換えよう。
自信がある人間が入りこむと、なんとか支えあって生きている人間の不安定な空間が、土足で荒らされる。後半、勘違いした男子と、傷心な前園は、愛沢によって片っ端から足をすくわれる。
悪意による攻撃というより、会話の根本があわないのだ。

ラスト、前園の選んだ道と、部室にほとんどいかなくなった新居屋の視線は、ゾクリとするものがある。
大学のサークルを卒業してしまえば終わるはずの「オタサーの姫」。
しかしその4年間が、心に残す傷は大きい。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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