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『落日のパトス』第1巻 艶々 【日刊マンガガイド】

2015/09/19


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは『落日のパトス』

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『落日のパトス』第1巻
艶々 秋田書店 ¥562+税
(2015年8月20日発売)


エロスとスリルは、紙一重のもの。いや、そもそもそこにスリルがあるから、人はエロスに魅せられて突き動かされるのかもしれない。
艶々の『落日のパトス』はそんなことを思わせる、エロスとスリルに満ちた一作だ。

主人公は、かけだしの漫画家である藤原秋。
取り壊しの決まっている古い集合住宅の一室を仕事場兼住居としているが、これまで空き部屋のままだった隣室に新たな住人が入ってくるところから、物語は幕を開ける。

隣人となったのは、仲井間真という女性。名前ではピンと来なかった秋だが、彼女に「フジワラ…くん?」と声を掛けられ、そしてその姿を見て、動揺を覚える。
「ゆっ…祐生先…生…!?」
真は、高校時代の恩師。結婚して名前が変わったという彼女と彼女の夫こそが、新たな隣人だったのだ。

無邪気に再会を喜ぶ真に対して、秋はなぜか気まずい表情。それというのも、高校時代、保健室で寝ていた真の胸を思わず触ってしまって、その勢いのままに彼女に告白してしまったことがあったからだ。
「あれは… “告白”じゃなかった… どちらかといえば… “いいわけ”…だよな…」
悶々とする秋だったが、その夜から彼はまた新たに悶々とさせられることになる。薄い壁を通して漏れ聞こえてくる、真の夜の声。欲望を抑えられず、秋は隣室をのぞきこんでしまう。
秋は真のそのエロスに振り回され始めて……。

秘密、思惑、欲望が壁一枚を隔てて蠢く本作。
秋が真をのぞき見る行為もスリリングだが、真がかつて秋が自分にしたことを思い出して、彼を見る目を変えていくところもスリリングだ。

真はすでにもう被害者でも受け手でもなく、攻め手で加害者なのだ。
のぞくという行為と声を通じての行為がどこまで発展していくのか、2人の関係性がどう変化していくのか。
その展開こそ一層のエロスとスリルに満ちたものとなりそうだ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。

単行本情報

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