日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『大市民 最終章』
『大市民 最終章』
柳沢きみお 双葉社 ¥1,200+税
(2015年9月10日発売)
作中で主人公の小説家・山形鐘一郎が67歳になったということは、本作の著者である柳沢きみおも今年で67歳!?
その事実にまず驚かされるが(中面の扉に掲載されている、若々しく二枚目な作者の写真を見れば、さらに驚くはず!)、いやはや、いい意味で枯れてはいても老いてはいない生き方にも驚かされるばかりだ。
最新刊で「最終巻」と銘打たれた『大市民』シリーズは、柳沢きみおが主人公に自身のライフスタイルと主義主張を仮託した、いわばエッセイマンガ。
主人公・山形は、ストイックに自分を磨き上げていて、好きなことには金を使うが、それだけに基本は貧乏生活。そんな彼が、人生と生活を楽しむコツ、また社会と世間に物申したいことが語られるのが、本シリーズだ。
1作目『大市民』(1992~1997年)に始まって、番外編含めてこれまでに7シリーズが発表されている。
今回の最終章は、完全描きおろし。第一章「今の山形」から「最後に」まで全11話が収録されている。
これまでにうまいビールの飲み方やワインの注ぎ方、餃子や焼きそばの作り方など披露してきていて(これが本当に参考になるのでぜひ過去シリーズでチェック!)、「美味し!」の決めゼリフはマンガ通にはおなじみのフレーズともなっているが、本作にも「豆乳みそ鍋」や「山形風つけソバ」など真似したくなるレシピ満載。
しかしそれ以上に残るのは、その金言の数々だ。
「みっともない事ともったいない事はしない」
「この世を味わうために 生まれてきたのだ そして消えていくのだ」。
これぞ『大市民』の柳沢きみお節!
巻末にはあとがきエッセイも収録されていて、そこで著者は「たぶんもうストーリーモノは描けず、この本のように、大市民の山形のキャラを使っての日常漫画なら、死ぬまで描けるような気もします」と語っている。
褒め言葉としてアクの強いあのストーリーものを読めなくなるのは残念なところだけれど、うん、『大市民』は続いてほしいシリーズだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2015 Spring』が発売中。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。