日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは『デッドプールの兵法入門』
『デッドプールの兵法入門』
ピーター・デイビッド(作) スコット・コブリッシュ(画)
高木亮(訳) 小学館集英社プロダクション ¥1,400+税
(2015年9月16日発売)
『孫子』といえば春秋時代の中国にルーツをもち、戦術・戦略を理論づけした思想書として、人類史に残る著作である。
本屋に行けばその解説書や翻案を目にしないということはないくらいで、マンガで解説された兵法も数え切れないほど出版されている。
なら、そこにデッドプールを登場させない理由などあるだろうか? パブリックドメインだからどんなにネタにしても訴えらえることもない!
その著者・孫武を暗殺する任務をえたデッドプールは『孫子』の原本を手に入れ、解説書を出して作家デビューを図ろうとする(たしかにデッドプールはマーブルユニバースにおける現代アメリカのキャラクターだが、この際気にすることはない)。
しかし今さら『孫子』の解説書くらいでは出版社は興味を示さない。そこでデッドプールは自著にハクをつけるため、ロキとその眷属を煽り、『孫子』に記された兵法を応用した地球侵攻を開始させる。
地球の命運はどうなるのか、デッドプールは作家デビューできるのか? そして、読者はたとえ教わるのがデッドプールからでも『孫子』を学べるのか?
ライターのピーター・デイヴィッドは業界でもかなりのベテランで、マーブルを中心に手堅い作風と時折見せるコメディで知られているが、デッドプールを本格的に手がけるのは初めてだったそうである。
デッドプールで『孫子』を解説するというコンセプトは、もともとデイヴィッドがヒーローコミックのフォーマットで『孫子』を解説したかったのだが、デッドプールを使えばなんでもできるだろう、と編集長との間で話し合って出てきたということだ。
結果として作品自体がちまたにあふれる『孫子』の解説書への風刺になっているのがまたおもしろい。
そもそも戦争のために書かれた本であるからして、ビジネスへ応用するくらいなら戦争に応用するほうが当然理にかなってる。
孫武の唱える文章をマーブルヒーローたちにあてはめるユーモアにも注目したい。
映画『アベンジャーズ』からアメコミの世界に入った人向けへのファンサービスもあり、また近年の邦訳コミックのなかでもかなりの低価格に抑えられてるので、気軽に手に取れる一冊になっている。
何より、もしあなたが氷の巨人やトロールたちを指揮して戦略目標を達成したいなら、まさにうってつけの本だろう。
<文・Captain Y>
アメコミオタク。クリエイター・オリジナル作品専門の邦訳アメコミ出版社Sparklight Comicsから翻訳を担当した『ファタール』、『ベルベット』、『デッドリー・クラス』が発売中。
ブログ:Codex 40000 建設予定現場
twitter ID:@Captain_Y