日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『俺の嫁なんていねえ!』
『俺の嫁なんていねえ!』第1巻
倉田嘘 一迅社 ¥680+税
(2015年10月17日発売)
タイトル変わりました。
百合が好きすぎるがゆえに苦悩と迷走を繰り返す花寺啓介を描いた『百合男子』。その第2期にあたるのがこの本。マイノリティな趣味を持つ人間として、それを他人に知られる恐れ(百合バレ)や、愛する百合にとって自分(男)という存在が邪魔でしかないことを、ひたすら悩み、迷走する。
ふと疑問が生まれる。そもそも百合って何? 百合ってそんなマイノリティだっけ?
『百合男子』が始まったのは2011年から。それから数年で一気に「百合」の考え方は変化している。
以前、百合は「ガールズラブ」だったり「エス(恋愛的な絆)」、つまり女性同士の恋愛を意味することが多かった。
しかしいまや百合の認識は、その幅をおおいに広げた。ある女の子2人を、第三者が百合だと思えば、それは百合だ。恋愛関係になくてもよい。たとえそのふたりが互いに憎しみ合っていたも、そこになにかの絆があれば、百合なのだ。この考え方はネット上では今や、マイノリティではなくなった。
なのに、百合は神聖不可侵にして、男が絶対に入ってはいけない、という花寺の考え方は思いっきり浮いている。
作中で花寺が知り合った、百合好きの男女の友だち。みんな良識的で、節度をもって百合を楽しんでいる。
自分の価値観にこだわりすぎて、勝手にひとりで無駄に悩み、ときに現実と虚構を一緒にして迷惑をかける花寺。『百合男子』の時以上に滑稽で、迷惑なキャラとして描かれる。
時代と良識に置いていかれている感が半端ではない。
今作から、百合好き男女の恋愛問題に踏みこんでいる。
趣味仲間の男女が恋に落ちることは、よくあることだ。百合好き書店員の武蔵野は、百合好き女子の藤ヶ谷にアプローチしている。
いっぽうで藤ヶ谷は、百合仲間として波長がある花寺といっしょにいるのが心地いい様子。
だが花寺は、藤ヶ谷を勝手に「百合」の対象として見ており、彼女との恋愛を断固拒絶。無駄に泥沼にはまりこんでいる。
趣味、友情、恋愛、百合。それぞれ相互に成り立つのか否か。現実と虚構に線を引けるのか。
このマンガは著者・倉田嘘の「百合をたしなむ人生はどうあるべきか」の研究発表だ。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」