365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
11月12日は皮膚の日。本日読むべきマンガは……。
『ヤング ブラック・ジャック』第1巻
手塚治虫(作) 田畑由秋(脚) 大熊ゆうご(画) 秋田書店 ¥533+税
今日、11月12日は1・1・1・2で「い・い・ひ・ふ」の語呂合わせから「皮膚の日」とされている。
制定したのは日本臨床皮膚科医会。毎年この日に皮膚医学に関する正しい知識を市民へ啓発するため、全国で講演会や相談会が催される。
皮膚。
それは生物の表面をおおい、身体の内と外を区切る重要なバリア。
ときには「皮膚感覚」という言いまわしで物事の雰囲気をつかむことの比喩に用いられたり、またときには肌の色が深刻な意味づけを負って人と人を差別する境界線にされたりもする。
厚さ1ミリ以下の薄い表皮でも、医学的、文学的、社会的にはとてもぶ厚い存在なのだ。
さて、その皮膚と縁深いキャラクターがいる。
手塚治虫『ブラック・ジャック』の主人公、無頼の天才外科医ブラック・ジャックである。
外科医だけに患者の皮膚を切り開き、縫合していくBJだが、くわえて幼少期に不発弾の爆発事故で大怪我を負い、顔の左半分の肌を色の異なるアフリカ系ハーフの親友の身体から移植されたという、当人も皮膚にかかわる重い設定をもっている。
ちょうど現在、スピンオフ『ヤング ブラック・ジャック』がアニメ化されて今期放映中ということなので、今回はそちらをご紹介しよう。
本作は、まだブラック・ジャックとしての評価を確立していない、若き医学生・間黒男(はざま・くろお)の物語。
学生運動で加熱する大学。銃弾飛び交うベトナムの戦場。人種差別の色濃く残るアメリカ。
さらにかの「三億円事件」などなど、1960年代後半ならではの背景を、間青年がいかにわたり歩いたか。
正規の医学生として技術を磨きつつ、患者の誠意を信じ、対価より道理を優先し、法を踏みこえる治療のリスクに恐れをいだく若者は、いかにして法外な報酬をもとめる闇医者になったのか?
人に歴史あり、という言葉がある。
フィクションキャラクターも生きた人間だと想定するなら、設定上の姿へ固まるまでに月日を刻んだ暮らしと経験が積み重なっているはず。本作はそこを深く掘りさげている。
巻がすすむと、米軍の軍医だったころのドクター・キリコといった『BJ』キャラにとどまらず、『ミッドナイト』や『七色いんこ』などの手塚作品から、その同一人物が登場する。
さらには伝奇時代劇マンガ『どろろ』から百鬼丸をモデルにした医師なんてのも登場してきて、手塚作品オールスターズのうえにスターシステムが重なっているという、ややこしいというかおもしろい状況が楽しめる。
なお、マンガとしてのビジュアルでいえば、“ヤンブラ”版ブラック・ジャックは服をひんむかれ素肌をさらしながら痛めつけられる耽美な図が多かったりと、男の色気が濃厚なのか特徴だ。
皮膚の日だけに、ブラック・ジャックの肌に注目しながら読んでみてみるのもオツなものかと。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7