日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『アイム・ノット・ヒア やまじえびね作品集』
『アイム・ノット・ヒア やまじえびね作品集』
やまじえびね KADOKAWA ¥780+税
(2015年10月24日発売)
『LOVE MY LIFE』、『ナイト・ワーカー』で現代女性の多様な愛の形を描き、大きな注目を集めた、やまじえびねの作品集。
ミュージシャンだった母への複雑な思いから、みずからの歌いたい欲求に蓋をしている彼女。
中学校時代のある経験から、少女時代に蓋をしてしまった彼女と少女時代に逃げこんでしまった彼女。
共依存にある母親から自立すべく家を飛び出した彼女。
兄から性的虐待を受け続けた事実を母親から拒絶され、心と身体が引き裂かれてしまった彼女……。
主人公たちは、いずれも何らかのトラウマや葛藤を抱えながら、鬱鬱とするでもなく、感情を爆発させることもなく、あくまで淡々と日々を過ごしている。
その穏やかな水面下にどろりと横たわる、底なし沼のような不安や絶望を、やまじえびねは端正な絵と細やかな会話で、心の襞をそっとなぞるようにデリケートな手つきで描きだしてゆく。
彼女たちの傷はけっしてたやすく癒やせるものではないが、それでも彼女たちはおそるおそる、再生への一歩を踏みだしてゆく。
軽い気持ちで読んだらギョッとなるが、読後感はすがすがしい。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69