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『涙の乙女 大西巷一短編集』 大西巷一 【日刊マンガガイド】

2015/06/07


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『涙の乙女 大西巷一短編集』
大西巷一 双葉社 \620+税
(2015年5月9日発売)


女性のほうが強いこともある、なんて言われるこの時代。しかし、過去において女性が男性より優位だったことなんて、世界中ほとんどない。いつも苦しみ、涙し、耐えていたのは女性だ。
『乙女戦争』『ダンス・マカブル~西洋暗黒小史~』など、中世の混乱と悲しみと残虐を描き続ける作家、大西巷一。この短編集で描かれるのは、男性社会に虐げられた女性の、復讐の物語だ。

マネット・ボヌールは、いいように遊ばれた挙句、男に捨てられてレイプされた。以降、彼女は男装をして、頭に布をかぶせ鈍器で叩き潰す殺人鬼と化した。
ブルターニュの雌獅子、ジャンヌ・ド・ベルヴィルは、濡れ衣を着せられ殺された夫の復讐のため、兵隊を率いてフランス兵を殺し続けた。
インカ皇女のキスペ・シサは兄に売られ、侵略者・フランシスコ・ピサロの妻に無理やりさせられ、うまく取り入るべく苦しみに耐えた。

彼女たちの戦いの根幹は複雑だ。復讐という理由はある。しかしすべて、「女」として生まれたことで不利になる世の中への、反旗でもある。
女をセックスの対象としてしか見ていない男社会への、鉄槌だ。
「戦うのです! 奴隷ではなく主人となりなさい! 運命の主人に!」
インカ皇女がいわれるセリフ。彼女たちが戦っているのは、目の前のひとりの男性ではない。歴史の秩序だ。

大西巷一のデビュー作「豚王」も収録されている。
中世の混沌、残虐、セックス、破壊、差別。醜悪な主人公をメインに、戦うしかない人間の悲しさを描いた作品だ。
ただ、ほかの復讐譚と違い、醜く残虐な豚王の生き方には、不思議な光がある。レイプと殺人が当たり前の世界で、何を見るかも大西巷一作品のテーマなので、『乙女戦争』と比較してみてほしい。



<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」

単行本情報

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