日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『王女の条件』
『王女の条件』第1巻
磯谷友紀 白泉社 ¥570+税
(2015年11月5日発売)
磯谷友紀の最新作『王女の条件』単行本第1巻が11月に発売された。
舞台となるのは、女系を正統の王につける制度をもつ架空の欧風国家・ブラガンサ王国。
女王が崩御したため3年後に新王を選び出すことが決まり、候補である2人の王女姉妹どちらかが次なる冠を戴くことになっている。
したたかに知恵をめぐらせ、国のすべてを手に入れようとする姉姫・エストレーラ、16歳。
まだあどけなさを残し、ただ自分が愛する者と結ばれたいと夢想する妹姫・ルア、14歳。
この姉妹を軸に、2人ともが肉体関係をもつ従兄をはじめ、新女王の夫の座を狙う諸侯の思惑がからまり権力欲と情念がぐるぐる渦巻く王侯貴族ロマンス(&サスペンス)になっている。
「愛憎劇」という形容でもいいのだが、登場人物は結婚、セックス、妊娠を跡継ぎ作り、つまり次期王座をたしかにするための手段として非常にドライにあつかっている。
そのため、“ドロドロしているけどベタベタしていない”、という独特の感触で読み進めることができる。
そのうえで本作がおもしろいのは、メインとなる姉妹の望みと実際のなりゆきが絶妙に食い違っていく流れだ。
姉・エストレーラは大人びており、賢さを武器に強く王座を求めていく。
しかし妹姫をだまして優位に立とうとした策が、じつはすでに自分のほうがハマっているものだったなど抜かりが多い。
空回りによって泣きを見る姿は、逆に幼い風情をかもしだしている。
一方、妹・ルアはお人よしで王座に興味が薄い。「愛に生きます」と無邪気に決意する少女だ。
しかし自分の気持ちに正直なゆえに、従兄のほかにも他国の使者へふらりと浮気する。
そのせいで結果的に大人の火遊びと政治的な立ち回りをしたかたちとなり、しまいには妊娠を機に一気に王座へ近づいてしまう。
物語のジャンルを問わず、個人の動向がもっと大きなうねりによって意図とは全然異なる方向へ作用していく展開というのは、「運命的」「ドラマティック」という印象を生み出す源になる。
本作には、まさしくそれがあるといえるだろう。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7