日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『警部銭形 A Hard Day's Night編』
『警部銭形 A Hard Day's Night編』
モンキー・パンチ(作) 岡田鯛(画) 双葉社 ¥650+税
(2015年11月27日発売)
現在、TVアニメの第4シリーズが放映中の『ルパン三世』。
その『ルパン三世』シリーズの名脇役、銭形警部を主人公としたスピンオフのマンガが『警部銭形』である。
『警部銭形』は、最初から犯人がわかっていて、それを銭形警部が除々に追いつめていく倒叙ミステリである。TVドラマでいえば『刑事コロンボ』『古畑任三郎』、小説ならば大倉崇裕『福家警部補』シリーズ(TVドラマ化もされた)、そしてマンガであれば『探偵ボーズ21休さん』(新徳丸・案 三浦とりの・著)、『探偵犬シャードック』(安童夕馬・作 佐藤友生・画)などの系譜に連なる作品である。
追いつめる相手が、俳優や議員など有名人である点も、先行作と同様。
トレンチコートをまとった地味な銭形が、華やかな雰囲気をまとう容疑者を、じわじわと責めるところが楽しみどころである。
犯人が、みずからの犯行をルパン三世(とその一味)の仕業とする偽装工作を施したため、ルパンのスペシャリストであるICPOの銭形が捜査に加わることとなる(その場合には、警視庁の一里塚警部補とペアを組むことが多い)。
ルパン一味のことを知悉する銭形なればこそ、ルパンの仕業に見せかけようとする犯人のミスリードはものともせず、真相へと着実に近づいていく。
ただし、偽装された犯行の裏で、じつはルパンが動いていたりとか(『第三の男編』中の1作)、本当にルパンの犯行であったり(本書中の1作)というパターンもある。
『第3のシナリオ』のラストで、京都府警の女性刑事・如月は銭形にこう告げる。
「警部…私…完全に思い違いをしておりました 申し訳ありません」
「警部はやはり優秀な警察官です」
「こんなにすごい警部さんなのに それでも捕らえるコトができないルパン三世ってどれだけの人物なんでしょう…」
これは読者の心情を正直に代弁した台詞だといえよう。
銭形警部は、いつもルパンに翻弄されている。だから、ダメな刑事だと思われている(如月もそう誤解していたのだろう)。
しかし冷静に考えれば、間抜けな刑事が、警視庁で警部を張れるわけはないし、ICPOに出向できるはずもない。優秀でありながら、戦う相手(ルパン三世)が悪すぎるためダメに見えてしまう、銭形の本当の姿を見ることができるのがこの『警部銭形』シリーズなのである。
『警部銭形』シリーズは、以下の全7巻となる。1巻あたり3作収録されているので、全21話がCAPTAIN ZENIGATAの事件簿となる。
・警部銭形 星屑のレクイエム編
・警部銭形 10番街の殺人編
・警部銭形 第3のシナリオ編
・警部銭形 砂の城編
・警部銭形 第三の男編
・警部銭形 メイビィ トゥモロー編
・警部銭形 A Hard Day's Night編(本書)
個人的にベスト3を挙げれば、3位「第3のシナリオ」、2位「メイビィ トゥモロー」、1位「紫の肖像」(『10番街の殺人編』収録)となろう。
「紫の肖像」は、ラストで銭形が犯人につきあい煙草を一服して共感している場面が、なんとも味があってよいのだ(「刑事コロンボ」の「別れのワイン」のラストを連想した)。
掲載誌である「ルパン三世officialマガジン」が2015年秋号で紙面出版を中断、WEBマガジン化することになり、本シリーズは完結となった。
だが、またいつか銭形警部の活躍を目にすることができると信じたい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「名探偵コナンMOOK 探偵女子」(小学館)にコラムを執筆。現在発売中の「ミステリマガジン」2016年1月号(早川書房)にミステリコミックレビューが掲載。同じく現在発売中の「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)にてミステリコミックの年間総括記事等を担当。