日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『実録! 34歳オタクが16歳女子高生と付き合ってみた件』
『実録! 34歳オタクが16歳女子高生と付き合ってみた件』第1巻
金谷拓海(作) 荒木風羽(画) アース・スター エンターテイメント ¥600+税
(2015年11月12日発売)
金谷拓海、34歳で独身サラリーマン。睡眠と仕事以外の時間を趣味に費やすオタクが、ほんの偶然から16歳の女子高生の飛田千春とつきあうことになるのだった……。
まず着目すべきは、帯の「すべて事実」という文字。これが波紋を呼び、ネット上では懐疑的な声が多数あがった。(多少嫉妬の意もあるのだろうが……)
そんなうまい話があるわけない、34歳というが大学生にしか見えん、イケメンがJKといちゃいちゃしているだけとか。
それでも、筆者はこれは本当に「実話」だと思う。
まだ人を見る目が養われていない16歳が判断のよりどころにできるのは、まずルックス。作画の人の絵柄がかわいい補正も働いているはずだが、原作者は実際にイケメンなのだろう。
「女子高生が初対面でヤンキーみたいな男のヤクザっぽい車に乗る」や「ファミレスでレディファーストをしたからいい人だと思った」など、大人から見ればおそろしく浅はかなふるまいを、少なくとも34歳“以上”の原作者が描くだろうか。背筋が寒くなる軽さは、逆にリアリティの裏付けを感じる。
それに、酔っぱらいから姫(のパンチラ)を守るナイトは大忙しだの、のろけ以上でも以下でもない話を、デビュー作『書戦突破!』で熱くて巧みなストーリーテリングをした原作者だ! 数ページにわたってこのような“創作”をするとは考えづらい。フツーのマンガの物差しをあてれば山も谷もない、「実話」とはそういうドラマ性を超えたところにある。
主人公の造形も、空想で創り上げたオタクにしては設定に無理がある。ファーストガンダム関連のガンプラをすべて所有? ワンルームのどこに……という破綻こそ生身のあかし。創作ではないからこそ、曖昧なのだ。
おそらく「モビルスーツ全種類」とか「MG縛り」とか俺ルールがあるはずだが、彼はそれを意識していない。実際にそうしているから。創作であれば、ツッコミを想定して先まわりしているだろう。このちぐはぐな感じが、著者の天然さ、人間味が感じられて興味深いのだ。2人のぶっとんだキャラクターが「実話」の信ぴょう性を欠くという代償のもと、作品をおもしろくしている。
むしろ実話であると考えると、本作は別の顔を見せる。
テキトーな宛先にメールを出す風船メールで出会いを求めた千春は、デニーズが高級店だと驚いていた。彼女の家がそう豊かではなかったから。
拓海からもらった高めのペンダントを友だちに自慢するのも、同年代のJKのカレシがタメ(同い年)で高価な贈りものができないという格差こみ。自立した社会人の経済力もしっかり“魅力”にカウントされている。
家庭の事情もあり、足りない何かを抱えた異性がいて、たまたま埋めあわせるだれかがいた。それ以上に惚れられる理由もない拓海は、いつも自信が持てない。
千春がバンドを組んでいる男子全員に「カレシがいると言ってくれ」と情けない頼みごとをしたりもする。「こんなガキと付き合うんじゃなくてもっと年齢相応の人と付き合いなよ」という千春の父は、世間的には正論だ。「失わないための孤独な戦い」を、のんきにうらやましがれるだろうか。
裏表紙で「現代女子高生の思考、生態が理解できるかも」とうたっているが、おそらく本作は“過去”の物語だ。だからこそ、今日我々はおもしろおかしく読めている。
ネットでも様々な検証がなされているが、筆者が考えるには、理由のひとつに、拓海=原作者が、2011年に『書戦突破!』でマンガデビューしていること。ネット系サラリーマンをやっている本編は、それ以前の話という可能性が高い(兼業はできるかもしれないが)。
さらに、キーアイテムとなる携帯がガラケーということ。本格的にスマホが普及し始めたのは2010年前後だし、ゲームへの出費を強調する原作者がスマホゲームをやってないのは不自然だ。加えて表紙で手にしている携帯ゲーム機はたぶんPSP、これは2004年発売。レーザーディスクとビデオデッキ(HDレコーダー以前の製品だ)を2010年代までメンテを維持するのは難しく、2000年代前半という推測が働く。
そしてアメリカでの大規模テロという劇中の事件。
かの国でその類が起きたのは2001年の同時多発テロ以外には考えにくく、ほぼ時勢は特定できるはず。
最終証明が「現在はSNSの時代 もし千春のなかの人がバレてしまった時、迷惑をかけないか?」という記述だ。現在進行形でつきあっていたり、すでに「身内」になってる人に対する配慮ではない……そういう目を向ければ、本作には「実録」だけが持つ深みが見いだせるのだ。
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。