365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
1月28日は宇宙からの警告の日。本日読むべきマンガは……。
『寄生獣 新装版』第1巻
岩明均 講談社 ¥463+税
1986年1月28日、スペースシャトル「チャレンジャー」が、射ち上げから73秒後に空中分解し、乗組員7名が全員死亡するという大惨事が起こった。
その4年後に刊行された『治療塔』は、大江健三郎が初めて手掛けた本格的な近未来SF。核戦争で汚染された地球から脱出して“新しい地球”へ移住した選ばれし者が、10年の時を経て“古い地球”を植民地にしようと企てる恐ろしい物語だ。
『治療塔』の執筆にあたり、大江はチャレンジャーの爆発からイメージを得ており、作中でもこの事故のことを「宇宙意志からの警告」と表現している。
これにちなみ、本日は「宇宙からの警告の日」に制定されている。
科学万能を信奉する人類のおごり――。それは美しい地球の環境を破壊し、ひいては滅亡をも招くことになる。
そんな大前提を心の片隅に追いやったまま、我々は必要以上の食べものを口に入れ、利便性を徹底的に求め続け、動植物や大自然を傷つけていく。
傍若無人な人類は害悪でしかないのか? そんな哲学的なテーマをエンターテインメントに昇華させた奇跡的な作品が、ご存じ『寄生獣』だ。
ある日、宇宙から飛来した謎の生物=パラサイトが人類に寄生、高い学習能力で社会にとけこむ一方、人類を捕食し始める。
ごく普通の高校生だった新一の身体にもパラサイトが入りこむが、右手を浸食されたものの、脳の支配は免れたことで、奇妙な共生ライフが始める。
キーポイントは、パラサイトたちが「自分たちが何者なのか」ということを把握していないこと。
気づいたときには人類に生物に寄生し、人類の捕食を始めていたというのだ。はたして彼らは地球を汚し、動植物を圧迫する人間たちに対する宇宙意志からの警告なのだろうか?
特筆すべきは、高尚ともいえる大きなテーマなのに、ちっとも説教臭くない点。
「人間さえいなくなれば美しい地球が取り戻せる」→「そのために(宇宙意志から)パラサイトが送りこまれた」という単純な構図ではない。
なにしろパラサイトたちは人間がいないと生きていけないのだ。
新一の前に立ちはだかる田村玲子は「寄生生物と人間はひとつの家族」という結論にたどりつく。
一方で「人類こそが寄生獣だ」と叫ぶ広川のような敵もいるが、このキャラクターには重要な大じかけが施されていた。
人間側の論理、人間側の正義に立って我々は生きている。
ほかの種族とは決してわかりあえないが、その大前提を胸に刻み込んだ上で共生していくしかない。
恐怖の存在でしかなかったパラサイトの象徴、田村玲子が新一に言い放つ
「我々はか弱い」「だから、あまりいじめるな」
というセリフに心が震える。
今後50年、100年先も読み継がれていくであろう“20世紀からの警告”だ。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』(2月13日公開)のパンフレットに参加しております。