日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『螺旋人同時上映 速水螺旋人短編集』
『螺旋人同時上映 速水螺旋人短編集』
速水螺旋人 講談社 ¥571+税
(2015年12月22日発売)
軍隊という巨大組織にまつわる「お役所仕事」を描いた『大砲とスタンプ』や、大祖国戦争(第二次世界大戦における独ソ戦の、ソ連側からの呼び方)とロシア民謡を融合させた『靴ずれ戦線』など、共産圏や官僚組織への独特のフェティッシュに、豊富なミリタリ知識、そして独自の発想をかけあわせた作品でいつも楽しませてくれる速水螺旋人。
その短編集が、本書『螺旋人同時上映』。
政情不安の続く革命前夜な国で「代書屋」を営むレオフリクリクを主人公にした連作短編3作をはじめ、ナポレオンロシア戦役の最中に現れた大砲の女神にトンチのきいた妖怪宇宙戦争、そして第二次大戦のさなかにドラゴンを追い求めたマッドな博士の物語と粒ぞろいの作品がそろっている。
まるっこい暖かな絵柄と、それに反してじつにシビアな世界観、そしてビターな味わいの残る巧みなストーリーテリングの融合が生みだす、著者ならではの魅力がコンパクトにつまった作品群。
「同時上映」と題されていますが、大作の前座にこんな短編映画を流してくれるシャレた映画館があったら、毎日だって通うのになぁ、とそんなことを思いました。
<文・前島賢>
82年生、SF、ライトノベルを中心に活動するライター。朝日新聞にて書評欄「エンタメ for around 20」を担当中。
Twitter:@maezimas