複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「木村拓哉のタイムリープ説」について。
『魔法少女まどか☆マギカ【魔獣編】 』
Magica Quartet (案) ハノカゲ (画) 芳文社 ¥657+税
(2015年12月12日発売)
あいかわらず世間はSMAP解散報道の余波に揺れている。
解散を望まないファンによる「世界に一つだけの花」購買運動が盛り上がり、ついに同曲はオリコンデイリーチャートで12年ぶりに1位を獲得した。当分のあいだは、右を向いても左を向いてもSMAP一色なのだろう。
そのなかでもとくに目を引いたのが「木村拓哉、タイムリープ説」である。
木村拓哉はSMAP解散の運命を回避するために、同じ時間を何度も繰り返してきた……という説であるッ!
何度も何度も解散しては過去にさかのぼってトライ&エラーを繰り返し、このエンドレスエイトのはてに、ついに木村拓哉は「解散阻止」の時間軸にたどり着いた。
まさしく木村拓哉こそがもともと特別なオンリーワンであり、だからこそ『SMAP×SMAP』の謝罪会見冒頭では「きょうは2016年1月18日です」と、解散阻止のメモリアル・デイを高らかに宣言したのであるッ!!
なんとビューティフルでドリーマーな新説ッ!!! 時をかける拓哉、愛は輝く舟なのかッ!?
しかし、タイムリープとタイムトラベルは、SFマニアのあいだでは有名だが、一般的にはなかなか区別がつきにくいようだ。
といったわけで今回は、ラベンダーの香りを嗅ぎつつ、タイムリープとタイムトラベルの違いをマンガで見ていこう。
『All You Need Is Kill』第1巻
桜坂洋(作) 小畑健(画) 竹内良輔(構成) 安倍吉俊(キャラクター原案) 集英社 ¥426+税
(2014年6月19日発売)
今回話題になっているタイムリープとは、過去の自分自身に戻る現象のことだ。そのため、同一時間に同一人物が複数存在することはない。
主人公は過去の“あの瞬間”の自分に戻るので、簡単にいえば「やり直し」をする物語となる。以前とは異なる行動をして、約束された未来を改変して「ありえたはずの別の未来」をめざすわけだ。
その代表例は『All You Need Is Kill』(原作:桜坂洋、構成:竹内良輔、キャラクター原案:安倍吉俊、作画:小畑健)である。
もともとは日本のラノベだが、ハリウッドで映画化された(主演はトム・クルーズ!)ことでも、有名かもだぜ。
主人公のキリヤは戦場で死ぬたびに初出撃の日の朝に戻り、何度も同じ戦場を繰り返すことで、徐々に攻略法を見つけだしていく。
こうしたタイムリープ作品は、特定の時間をループする物語になる。
ジャニーズファンは、KinKi Kidsの『ぼくらの未来 未満都市』を思い出してほしい。
『僕だけがいない街』第1巻
三部けい KADOKAWA ¥560+税
(2013年1月25日発売)
現在アニメが絶賛放映中の三部けい『僕だけがいない街』も、タイムリープの亜種といえる。
主人公の藤沼悟は「再上映(リバイバル)」という特殊能力により、なにか事件や事故が起こる直前の瞬間に戻り、その要因がとり除かれるまではタイムループし続けてしまう。
そんな悟が、ある事件をキッカケに、みずから強く「再上映」の発生を願ったら、なんと2006年から1988年の自分へとタイムリープしてしまった。2006年に悟が巻きこまれた事件は、1988年に起きた出来事と深く関連しており、悟は2つの時代を行き来しつつ真相を解明しようとする。
通常、タイムリープ作品は、直前の数日から数週間程度の期間を繰り返すものだが、18年もの歳月をジャンプするのは非常に珍しい。
【「このマンガがすごい!WEB」著者インタビューは、コチラ!】
『藤子・F・不二雄大全集 大長編ドラえもん』第1巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥1,800+税
(2010年9月発売)
一方のタイムトラベル(タイムスリップ)とは、過去の世界へと旅する物語だ。
わかりやすくいえば藤子・F・不二雄『ドラえもん』のタイムマシンである。最近の時間軸へと時間旅行すれば、同一時間に同一人物が複数存在することになってしまう。
『ドラえもん のび太の大魔境』を思い出してほしい。しずちゃんが「先取り約束機」で約束すると、もう一組の自分たち(のび太、ドラえもん、ジャイアン、スネ夫、しずちゃん)が現れて、「未来の自分たち」が「過去の自分たち」を救う。
タイムパラドックスが起きそうで、スネ夫が言うように「なんだかややこしい話」である。
『戦国の長縞GB軍』第1巻
志茂田景樹(案) 日高建男(画) リイド社 ¥629+税
(2014年3月27日発売)
なお、タイムトラベルは「自分自身に戻る」わけではないので、自分が生まれていない時代にも時間旅行できる。
戦国時代でシェフになる(『信長のシェフ』)こともできるし、幕末で外科医になる(『JIN -仁-』)ことだってできるのだ。
『戦国の長縞GB軍』(原案:志茂田景樹、作画:日高健男)は、シーズンオフに自衛隊演習に参加したプロ野球団・東京グレートベアーズが、なんと戦国時代にタイムスリップ!
グレートベアーズは1995年の読売巨人軍をモデルにした球団なので、長嶋茂雄や松井秀喜(をモデルにしたキャラ)が近代兵器を使って戦国時代で大暴れする。
要するに「戦国自衛隊+長嶋巨人軍」というコンセプトなのだが、なんというか……、なんでもアリだッ!
『総理を殺せ』第1巻
森高夕次(作) 阿萬和俊(画) 小学館 ¥486+税
(1998年8月発売)
『総理を殺せ』(原作:森高夕次、作画:阿萬和俊)は、2024年から1995年にタイムスリップする話だ。
主人公・三浦佳郎が生きた世界では、2014年に日本と中国の領海線上で油田が見つかり、以来、油田をめぐって日中関係は悪化する。そして剣崎裕太郎総理は徴兵制を復活させ、やがて核戦争に突入。
1995年にタイムスリップした三浦は、「未来の独裁者」を殺害し、核戦争を回避しようと画策する。昨今の政治情勢を鑑みるに、いろいろと考えさせられる展開といえるだろう(作品発表は1998年)。
原作の森高夕次は『グラゼニ』や『ショー☆バン』、『江川と西本』など数多くの野球マンガを手がけている。
みずから作画する場合はコージィ城倉名義を使用し、やはり『砂漠の野球部』や『おれはキャプテン』など野球マンガを描いてきた。
『総理を殺せ』の主人公が「野茂投手、大リーグへ」の新聞記事でタイムスリップしたことに気づくあたりは、作者の野球好きに由来するのだろう。
【「このマンガがすごい!WEB」著者インタビューは、コチラ!】
ちなみに、映画『おくりびと』の滝田洋二郎監督が1986年に撮った日活ロマンポルノ『タイムアバンチュール 絶頂5秒前』では、主人公のOLが1986年から2001年にタイムスリップするのだが、2001年の新聞記事には「清原800号本塁打」「西川きよし首相誕生」とある。
『戦国の長縞GB軍』にしても『総理を殺せ』にしても『タイムアバンチュール』にしても、どうやらタイムスリップとプロ野球はどうも相性がいいらしい。
なお、木村拓哉はフジテレビ系列のテレビドラマ『CHANGE』で総理大臣をやった経験もある。
議員の父が亡くなったあと、不本意ながらも父の地盤を継いで政界進出……という設定は、『加治隆介の議』(弘兼憲史)だけでなく、前述の『総理を殺せ』における剣崎総理にも共通する経歴だ。
ということは、木村総理がSMAP解散阻止のためにタイムリープしているなら、SMAP解散推進派は未来から木村総理暗殺の刺客を放ってもおかしくないッ!!!!
その刺客はスカイネット社が開発した人型殺人マシーンのターミネーターで、カリフォルニア州知事だッ!!!
そして木村拓哉を守るために未来からベジータの息子・トランクスが派遣されて……それで、えーっと、この話は何回目だっけ?
みんなも気づかないうちにループしているかもしれない。気をつけろッ!!!!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama