365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

2月15日はお菓子の日。本日読むべきマンガは……。

『てんとう虫コミックス ドラえもん』第17巻
藤子・F・不二雄 小学館 ￥429+税

毎月15日はお菓子の日。
これは、全国菓子工業組合連合会が1981年(昭和56年)に制定したもので、その由来はお菓子の神様を祀った例大祭が15日に行われていた故事にちなむのだとか。

バレンタインデーの翌日である2月15日は、1年のお菓子の日のなかでも特に重要視されている。バレンタインデーの次の日にお菓子の日なんて、お笑いでいう「天丼」……お菓子なのに天丼とはこれいかに。

そんなお菓子の日にふさわしいマンガといえば『ドラえもん』。
なにせドラえもんといえば大好物がどら焼き。どら焼きと聞けば逆引き的にドラえもんを連想する人も多いでしょう。
今でこそ全国区の知名度を誇るどら焼きだが、『ドラえもん』のテレビアニメが始まった1979年当時、どこの和菓子屋さんでも取り扱っているようなお菓子ではなかったという印象がある。
どら焼きの知名度アップと普及に『ドラえもん』が果たした影響力はとても大きいと思うが、本日のテーマはどら焼きではない。

『ドラえもん』にはほかにもおいしそうな和菓子がたくさん登場する。
写った画面をほかの鏡にも写しだすひみつ道具「遠写かがみ」を使って、町中の鏡にコマーシャルを流す「かがみでコマーシャル」（てんとう虫コミックス『ドラえもん』第14巻）には、じつにうまそうな和菓子が描かれる。
「こ、このきんつばのうまいこと」とパクつくのび太がうらやましかったこと！　初めて読んだ当時きんつばなんて和菓子は食べたことがなかったのだが、味を知らないぶんよけいに謎の和菓子「きんつば」に対する想像力をかきたてられた。 でも、本日のテーマはきんつばでもない！

そんな数多い『ドラえもん』のお菓子のなで、忘れえぬインパクトを残す和菓子といえば「くりまんじゅう」でしょう！

おやつのくりまんじゅうが乗ったお皿を目の前に、「うーん」とうなるのび太。
何かと思えば、せっかくのくりまんじゅうも食べてしまうとなくなってしまうので、食べてもなくならないようにできないかと悩んでいるところ。

一周まわって哲学的な問いかけにも思えるこの無理難題に、ドラえもんは「そんなことなら」となんでも増やすひみつ道具・バイバインを取り出す。
ところが危険だからやっぱりやめたと、バイバインをしまってしまうドラえもん。くいさがるのび太に、それなら増やしたくりまんじゅうは残さず食べることと約束させる。

バイバインはふりかけたものが5分ごとに倍に増えていく薬だった。
はじめの5分でひとつが2つ、次の5分で2つが4つ……という調子で。

のび太は増えだしたくりまんじゅうに大喜び。だけど、途中で飽きてきてしまう。
ママにおすそわけしたものの、ママも満腹だと残してしまい大弱り。
ジャイアン、スネ夫、しずかちゃんを大急ぎで呼び集めるけれど、その間にもくりまんじゅうはパカ、パカと増え続けていく……。

3人がかりで食べてもらうも、やはりどうしても全部食べきれない。残ったくりまんじゅうはたったひとつなのに、のび太はあいかわらず満腹でとても食べられやしない。
思いあまったのび太は臭いものに蓋とばかり、くりまんじゅうをゴミバケツへと捨ててしまう。

その後、知らぬ顔を決めこんでいたのび太だったが、ドラえもんの説明を聞いて真っ青に。
たったひとつのくりまんじゅうが5分ごとに倍になると、1時間で4096個。2時間で1677万7216個。それからわずか15分で1億個を越すというのだ。 はたしてのび太は無限に増え続けるくりまんじゅうをどうするのか!?　地球はこのままくりまんじゅうの底に埋まってしまうのか!?

SF作家・山本弘氏もエッセイでくりまんじゅうの行く末を考察するなど、各方面からも熱い注目を集めたエピソードで、読んだらきっとくりまんじゅうのことが頭から離れなくなるはず。

この宇宙的なスケールを持った壮大な物語が、わずか7ページで語られているのにも、あらためて『ドラえもん』のすごさ、藤子・F・不二雄の語り口のうまさを実感させられます。
おいしいくりまんじゅうと熱いお茶と一緒に、ぜひ。

＜文・秋山哲茂＞
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』、『ドラえもん深読みガイド』（小学館）、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進！』（徳間書店）など。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士（見習い）。