日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『健康で文化的な最低限度の生活』
『健康で文化的な最低限度の生活』第3巻
柏木ハルコ 小学館 ¥552+税
(2016年1月29日発売)
柏木ハルコが生活保護の実情を新人ケースワーカーの目をとおして描く本作も、いよいよ第3巻に突入。
第2巻の終盤に、えみるの担当世帯の長男・日下部くんがバイトをしていたことが発覚。本人にそのつもりがなかったとはいえ「未申告就労→不正受給」に当たるため、全額没収しなければならないことになる。
法律とはいえ、高校生ががんばって稼いだバイト代を没収するなんて……。
自分がどうがんばっても、全額没収は変わらない。
そんな不条理な現実に憤る、えみるに、だからこそ、他人ごとではなく、本気で寄りそい、これからも関わり続けていくことがケースワーカーの仕事なのだという上司の言葉が沁みる。
悲しいかな、私たちは目の前のひとりの人生については敏感に反応できるものだが、それが遠い国の何百人単位のものになったとたん、たんなる「データ」として流してしまうところがある。
しかし、だからこそ、柏木ハルコは、生活保護のさまざまな「ケース」を、ひとりの人間の血肉の通った「人生」として生々しく描くことで、私達のお粗末な想像力に揺さぶりをかけるのだ。
本巻後半では、援助できる親族がいないか調査する「扶養照会」にスポットが当てられる。
「血縁」が絶対的でなくなりつつある現代社会に、本人が絶縁して、絶対会いたくないという親族に必ず連絡を取らなければ申請が通らない。
これまた難しい問題だけに、ことのなりゆきとえみるの対応から、目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69