『少年プリンセス』
マツリセイシロウ 秋田書店 \607
(2014年6月20日発売)
「女装少年」や「男の娘」といった題材が、マンガ界でも市民権を得てきた気がしないでもない、今日このごろ。
本作は、南方の小国・ウルネイの王太子に「プリンセス」として嫁ぐことになった、日本の男子(!)中学生・直虎が主人公。
なぜ男がプリンセスに……といえば、幼少時の直虎の写真を見た王太子が、女の子だと勘違いをしたことが理由だという。ウルネイは豊かな資源を持つ、世界でも有数の富豪王国。このチャンスに飛びついた外務官僚である直虎の父は、国益(および自身の野望)のため、嫌がる彼にウルネイの伝統ある「ネコ耳」付きのセクシー民族衣装を着せて送り出すのであった……!
女装モノには欠かせない、正体バレの緊迫感と、少しずつ「男の娘」化していく主人公の心理を丁寧に描く序盤。
さらに、直虎の婚約者である王太子にもジェンダー的な設定として、とある秘密を設けたことで、主人公の恋(?)の行方は二重三重の複雑さを見せることになる。
対して、物語自体は、少年マンガ/少女マンガとして、じつにストレート。
国粋主義者によるテロ事件、後宮に渦まく闇、そして王家の血の秘密と陰謀……。それらに「プリンセス」として、そしてウルネイに伝わる救国の乙女「虎の娘(プトゥリ・ハリマオ)」として立ち向かうナオ(直虎)の凛々しい姿は、手塚治虫『リボンの騎士』や武内直子『美少女戦士セーラームーン』を筆頭とする過去のヒロインたちの戦いと同質である。
そしてそれは、平々凡々とした中学生であった「少年」が、(南方で活躍した正義の使者・快傑“ハリマオ”のような)ヒーローへと変わっていく成長譚としても読める。
単なる「男女逆転」では終わらない複雑な構成こそが、「女装少年」や「男の娘」が市場に拡散してきた今だからこそ登場した、本作の魅力であるといえる。
……もちろん、最大の魅力は、主人公であるナオの、男の娘ならではのセクシーさであることに間違いないわけであるが!
終盤、少々駆け足気味で、ナオと王太子の「秘密」の解決のないまま終わってしまったが、巻末を見るかぎり、続編の構想はある模様。
女の子ヒロイン以上に艶やかでかわいらしい、男の娘ヒーローの活躍、もっと読んでみたい!
<文・四海鏡>
石ノ森章太郎ファンのライター。好きな石ノ森作品は『番長惑星』など。ネオライダー世代。