365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
3月8日は忠犬ハチ公の命日。本日読むべきマンガは……。
『手塚治虫文庫全集 ケン1探偵長』
手塚治虫 講談社 ¥950+税
きょう3月8日は、忠犬ハチ公の命日である。
亡くなった主人を9年間も渋谷駅前で待ち続けたエピソードは有名で、ハチの銅像が建つ渋谷駅前広場(ハチ公口)は現在でも渋谷のランドマークとして待ち合わせ場所に使われている。
もともとハチの“美談”は、東京朝日新聞で報じられた。
すると、またたく間に全国区の知名度になり、そしてハチ公像の建立へとつながったのだが、じつはハチが死亡したのは1935年3月8日のこと。ハチ公像は、その前年の1934年に建てられている。
なんとハチ公像は、ハチの存命中に建てられたのだ。
やがて第二次世界大戦中、金属供出の命令によってハチ公像は回収されてしまう。
そして戦後の1948年にハチ公像は再建された。つまり現在渋谷駅前にあるハチ公像は「二代目」なのである。
その「二代目」が登場するマンガが、手塚治虫『ケン1探偵長』だ。
主人公のケン一は少年探偵である。
少年秘密探偵結社は全国に26もの支社を持つ巨大組織であり、「大人たちの気がつかない社会の事件」を解決するのが仕事だ。
ケン一はその少年秘密探偵結社の探偵長を務めている。
「北京原人の化石事件」では、ケン一はある男を呼び出し、渋谷駅前で待ちあわせをする。
その待ち合わせ場所が、ハチ公像の前であった。
この時すでにハチ公像が、待ち合わせ場所として定着していたことがうかがえる。
この「北京原人の化石事件」の連作エピソードは、かつて存在した月刊少年誌「少年クラブ」(講談社)にて、1955年9月から12月にかけて掲載された。
ハチ公像再建から7年。かなり初期の「二代目」の姿が描かれている。
なお、作中のハチ公像は、渋谷駅を背にして建っており、これは現在とは向きが違う。
現在のハチ公像は、道玄坂方面から渋谷駅へと向かっている。われわれにとっては、違和感の残る1コマだ。
ではこれは神様・手塚先生の作画ミスかというと、そうではない。当初の「二代目」は、渋谷駅を背にして建っていたのだ。
ハチ公像が現在の向きになったのは1989年5月。この時に「初代」と同じ向きになるように改められたのである。
ちなみに手塚治虫が上京したのは1952年。
そして1989年の2月に亡くなったので、ハチ公像と手塚のプロフィールを重ね合わせると、手塚は「本来のハチ公像の向き」を見たことがないことが浮き彫りになる。
最近は携帯電話など連絡手段が発達したことで、待ちあわせ場所を指定して落ちあうようなことは、以前よりは減ったように思われる。
きょう3月8日、ハチ公の命日には、『ケン1探偵長』で往時の姿をながめながら、だれかのことを待ちわびてはどうだろう。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama