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3月16日はサッカーのFAカップ決勝戦が開催された日 『フットボールネーション』を読もう! 【きょうのマンガ】

2016/03/16


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

3月16日はFAカップ決勝戦が開催された日。本日読むべきマンガは……。


FootBallNation_s01

『フットボールネーション』第1巻
大武ユキ 小学館 ¥524+税


1872年3月16日、イングランドでサッカーのFAカップ決勝戦が開催された。
これが世界最古のサッカー大会とされており、ボルトン・ワンダラーズFCが初代王者に輝いた。
ボルトンは中田英寿が所属したこともあるので、日本のサッカーファンにはおなじみのクラブである。

英国サッカー協会(FA)は、20世紀初頭に世界各地のサッカー協会に銀杯を贈答する“政策”を打ち出した。
世界各地でFAカップを模したトーナメント大会が開催されるようになり、これが契機となってサッカーが世界的な競技へと発展していくわけだが、日本には1919年にFAから銀杯が贈られた。
そして日本でも、大日本蹴球協會(現在の日本サッカー協会)と全日本選手権が創設されたのである。
この全日本選手権が、のちに天皇杯となる。

第1回FAカップ決勝の日にふさわしい作品は、大武ユキ『フットボールネーション』だ。

本作はサッカークラブ「東京クルセイド」が、天皇杯を勝ち上がっていくサッカーマンガである。
天皇杯はFAカップと同様にオープントーナメントなので、各都道府県大会を勝ち抜けば、アマチュアクラブや学生チームであっても本戦に出場することが可能だ。

東京クルセイドは東京都社会人リーグ3部に所属するアマチュアクラブ。
クラブを立ちあげた監督の高橋幹保(たかはし・みきやす)は、みずからのサッカー理念の正しさを立証するために、アマチュアクラブによる天皇杯制覇を目指す。

東京クルセイドはアマチュアクラブなので、一流選手が集まるような環境ではない。
クラブに所属するのは、少年院帰りの元エリート、無免許飲酒運転で解雇された元プロ、怪我で解雇された元プロ、ストリートサッカー出身などなど、一癖も二癖もある選手ばかり。
こういったクセモノたちを、高橋監督がセオリー(理論)とメソッド(実践)によって鍛えあげ、「戦える選手」に仕あげていくところが見どころだ。エリートコースからドロップアウトした選手たちが再起する「ワンス・アゲインの物語」といえるだろう。

そして、その物語を下支えするのが、「科学」の要素である点が本作の特徴だ。
本作は運動科学総合研究所の協力を仰いでいる。作中で高橋監督が提唱する「世界基準のフィジカルとセンス」とは、ハムストリング(腿の裏の筋肉)やインナーマッスル、あるいはボール保持中の姿勢など、現実のサッカーの世界でも注目されつつある要素である。
Jリーグの各クラブはデータスタジアムから提供された分析データを利用しているし、Jリーグは昨シーズンから一般向けに一部データを公開するようになり、あるいはガンバ大阪がフットボール・ピリオダイゼーションという最先端のトレーニング理論を導入して三冠を達成するなど、今サッカー界にはデータや科学的な新機軸がどんどん導入されている。

その一方で、冒頭で見たように、すでに日本のサッカーには100年近い歴史がある。
科学やデータ的要素の導入が遅れた業界ゆえに、伝統的な慣習が根強いのも事実だ。選手も指導者も(ファンも協会も)、「昔からのやり方」に対する“信仰”があり、それを変えるのは容易ではない。

『フットボールネーション』は、新しい概念で対戦チームに勝利するだけではなく、進化と発展を妨げる古い因習を打破していく。だからこそ東京クルセイドの勝利には、痛快さがともなうのだ。
世界最古のサッカー大会が開催されたこの日に、サッカー界における最新のトレンドを採り入れた本作を読むのも意義深いのではないだろうか。

ちなみにサッカーファンからすると、大竹洋平と山田直輝(ともに湘南ベルマーレ)をモデルにしたと思しきキャラクターに、妙に肩入れしたくなるハズ?



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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