日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『リヒト 光の癒術師』
『リヒト 光の癒術師』第3巻
明 小学館クリエイティブ ¥600+税
(2016年2月10日発売)
現役看護師が描く医療ファンタジー『リヒト -光の癒術師(ハイレン)-』は、人生を変える人々を描いたお仕事マンガだ。
病み傷つく人々に手を差しのべる癒者(いじゃ)、そのなかでも最高位の最高癒術師(ナイチンゲール)を目指す少女ティナは、癒者見習い(リアリン)として施療院ル・カインで修行の日々。
目標は、最高癒術師になることだ。
ティナを通して描かれる異世界の医療。そこで描かれる癒者のあり方は独特だ。
癒術は人の治癒力を引き出す力。単に傷の手当をする、病気の治療をするだけのものではない。
学んでいくなかでティナは壁にぶつかる。
医師(ドクトル)のユリウスは、事故にあった物乞いを救おうとするティナに「なぜ救う必要があるのか」と疑問を投げかける。
たとえここで命を救っても、その後の彼の人生まで責任を負うことができるのか? ティナの“ひとりでも多く救う”という信念が揺らぐ。
一度ミスを犯したり、一瞬でも判断が遅れたりすれば次はない。なぜなら患者は死んでしまうからだ。
生命に関わる仕事に従事する彼女たちは、この世界でもっとも人生を変える存在ではないだろうか。
そんな彼女/彼らの奮闘ぶりだけでなく、反発して素直に治療を受けない患者など治療を受ける側の姿もまた印象に残る。
このマンガに登場する、人の人生を変える職業は癒者だけではない。
検事であるティナの姉・ララも、その判断やスキルによって人生を左右する仕事だろう。
裁かれるべき者が裁かれ、正しく道を歩むよう導く検事の仕事で、ララもまた己の心と向きあうことになる。
ユニークな世界観の、新しい医療マンガ。舞台こそ異世界だが、医療がテーマのこの作品。
著者の現在進行形の葛藤や苦悩、そして喜びがリアルに反映されているはず。
現場で感じたものを描きたいという衝動が、線の1本1本から強く伝わってくる勢いのあるマンガであることも魅力だ。
<文・川俣綾加>
フリーライター、福岡出身。
デザイン・マンガ・アニメ関連の紙媒体・ウェブや、「マンガナイト」などで活動中。
著書に『ビジュアルとキャッチで魅せるPOPの見本帳』、写真集『小雪の怒ってなどいない!!』(岡田モフリシャス名義)。
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