日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『スズキさんはただ静かに暮らしたい』
『スズキさんはただ静かに暮らしたい』第3巻
佐藤洋寿 徳間書店 ¥580+税
(2016年3月19日発売)
『このマンガがすごい! 2016』の「この新人がすごい!」で大きく取りあげられた佐藤洋寿『スズキさんはただ静かに暮らしたい』も、第3巻でクライマックスを迎えて完結となる。
見知らぬ男に母親を殺され、自らも銃口を向けられた10歳の少年・仁輔。
そこに隣室の若い女性が、玄関のピンポンを連打する。彼女は、「ただ静かに暮らしたい」というのが口癖で、仁輔たちに常々クレームをつけていたのだ。
男は、銃口をクレーマーの隣人に向けるが、彼女は冷静に拳銃を奪い取り、瞬時に男を返り討ちにする。
隣人のスズキさんは、じつは凄腕の殺し屋だったのだ。
母親を殺された少年と、それを助けた殺し屋。そんな2人の逃避行を、大友克洋を想起させる硬質なタッチで描いたクライムサスペンスが『スズキさんはただ静かに暮らしたい』である。
行きがかり上、仁輔と逃げることとなったスズキさんだが、いっしょに暮らすうちに母性が生まれてくる。
仁輔と静かに暮らすため足を洗おうとするのだが、当の仁輔から(殺し屋じゃない)「ただのスズキさんなんて……大ッ…キライだっ…」と言われてしまう。
非情な殺し屋のスズキさんが、10歳の少年に翻弄される様は、本書の読みどころのひとつである。
そして、この擬似親子に“ちょっかい”をかけるのが、仁輔の両親を殺害した犯人グループの主犯格の楠警視なのだが、彼のキャラクターの壊れっぷりも、またみごとである。
その楠と仁輔の間にも(かなり歪んだ感じだが)父子のような雰囲気が醸し出されており、完結巻となる第3巻では、2つの“擬似親子”がどのような関係に落ちつくのかが焦点となる。
本作のよさには、こうした巧みなストーリーテリング、キャラクターの造形の確かさがあるのだが、さらに言えば画面構成のうまさも見逃せない。
第3巻で言えば91~92ページなどは、特に絶妙なコマ割り(いや、映画チックに「カット割り」と言ったほうが適切だろう)である。文字で描かれた銃声やラジオの音声も、読む者の耳に響いてくるのだ。これは実物を見るのが一番なので、ぜひ現物をあたっていただきたい。
なお、冒頭にも述べたとおり、『スズキさんはただ静かに暮らしたい』は当サイトの本誌『このマンガがすごい! 2016』の「この新人がすごい!」にピックアップされている(執筆は奈良崎コロスケ)。
「この新人がすごい!」は、2015年度に単行本デビューを果たした新人をチェックするコラムである。見開き2ページで16名の作家が紹介されるなか、本作はトップバッターで、分量としても2分の1ページを割かれているから「大きく取りあげられた」というのは、決して誇張ではない。
ベスト16中の第1位といってもよい位置づけなのだ。
佐藤洋寿――次回作が楽しみな描き手である。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)で国内本格ミステリ座談会とミステリコミックの年間総括記事等を担当。また現在発売中の、「ミステリマガジン」5月号(早川書房)でミステリコミックレビューを担当。