365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
5月2日は水戸天狗党が蜂起した日。本日読むべきマンガは……。
『鞍馬天狗』第1巻
大佛次郎(作) 外薗昌也(画) リイド社 ¥552+税
元治元年3月27日、現在の暦にして1864年5月2日。常陸国(現在の茨城県)の筑波山で、水戸藩の急進的尊皇攘夷派を中心に結成した「天狗党」が武装蜂起した。
首領格は藤田小四郎。幕末の志士たちに精神的影響を与えた水戸学の学者・藤田東湖の四男で才気煥発な小四郎が蜂起した背景には、徳川御三家の一端をになう水戸藩内での後継者争いや海外からの圧力に断固たる対応をとれない幕府への不満などがあったという。
当初62人だった同志は数日後に150人、わずかひと月で約700人にまでふくれ上がり、軍資金調達の目的で行く先々で乱暴狼藉をはたらいた天狗党。結局、幕府から追討され、同年12月17日(1865年1月14日)に鎮圧される。
天狗党の乱とちょうど同じ頃。京の町に、幕府方である新撰組の勤皇志士狩りをはばむ謎の男が登場した。
その名は「鞍馬天狗」――。
大佛(ダイブツではなくオサラギ!)次郎が大正末期の娯楽雑誌に発表した小説に登場するのが、勤皇の剣士・鞍馬天狗だ。
角兵衛獅子(軽業の見世物)の少年・杉作を供にする中肉・色白、目元すずやかな好男子、という設定が宗十郎頭巾をかぶった覆面剣士になったのは、のちに俳優・嵐寛寿郎が映画で演じた鞍馬天狗が大ブレークしたため。
幕府あるいは体制に反発する行動理念から、一説には鞍馬天狗を天狗党の残党とするむきもあるようだ。
今回ご紹介する外薗昌也の『鞍馬天狗』は、大佛版と映画版それぞれの設定をうまく取りこんだ意欲作。
スタート早々新撰組の屯所(アジト)に踏みこみ、豪剣で隊士たちをまっぷたつにたたき斬る天狗の面をつけた謎の剣士……その正体は、かつて新撰組に裏切られた“ある人物”である。彼も水戸の出身で、もとは天狗党だったとする説が残っている。
「倉田典膳」と名乗るその男は、復讐に暗い炎を燃やす鬼の側面と、残酷な現実世界とおのれの無力さに泣く杉作少年をあたたかく見守る仏の側面を持つ。
また逆に、杉作の存在が鞍馬天狗の救いになっている点が単なる復讐劇にドラマをもたらしている。
新撰組局長・近藤勇や冷酷な副長・土方歳三も敵役として登場、ゾンビみたいな剣鬼・沖田総司が現れたところで第1巻は終了するが、それ以降は続刊が出ていないようだ。
一般的には新撰組を私物化して粛清されたとされる“ある人物”の再評価につながりそうだったただけに、非常に残念なかぎり。求む復刊!
<文・富士見大>
編集・ライター。特撮のあれこれやマンガのあれこれに携わる、動物メカ愛好家。『別冊宝島2394 仮面ライダー』や、ただいま絶賛発売中の『別冊宝島 「仮面ライダー」伝説の10人ライダー総特集』にも参加しています。