日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』
『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』第5巻
モーリス・ルブラン(作) 森田崇(画) 小学館クリエイティブ ¥800+税
(2016年5月2日発売)
『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』は、フランスの作家モーリス・ルブランが創造したキャラクター、アルセーヌ・ルパンシリーズを「ルパンファンの第一人者を任ずる」森田崇がマンガ化した作品である。
第3巻からルパン物の代表作『奇巌城』のコミカライズが続いていたのだが、5月に発売された第5巻で『奇巌城』編は完結。ルパン対少年探偵イジドール・ボートルレの対決に終止符が打たれることになった。
第4巻で「空洞の針」(エギーユ・クルーズ)=「奇巌城」に関する推理を否定されたボートルレだが、再度ルパンの残した暗号に挑んで、その隠れ家「奇巌城」に肉薄していく。
また、名探偵ハーロック・ショームズ(!)も、異なるアプローチでルパンに迫りつつあった。そして、ついにボートルレは「奇巌城」を発見する(その場面はカラー・見開きで感動的に描かれる。こうした演出はやはりマンガならではである)。
ボートルレは、ルパンのライバルであるガニマール警部とともに、「奇巌城」に侵入する。
暗号を解きながら、厳重な扉を開き、次の階層に進んでいくボートルレたち。
こうした冒険シーンは、江戸川乱歩『孤島の鬼』や横溝正史『八つ墓村』といった日本ミステリの名作にも登場する。あるいは、ダンジョン物のロールプレイングゲームにたとえたほうがよりわかりやすいだろうか。
『奇巌城』は、そうしたものの源流にあるともいえ、そこにこの作品の偉大さがある。
ガニマール警部は、警官隊を動員しただけでなく、周囲を海に囲まれた「奇巌城」からルパンを逃さないため、海軍の出動まで要請した。
船で脱出したら、容赦なく撃沈(!)するというわけだ。
この包囲網をルパンはかいくぐることができるのだろうか……(あとは読んでのお楽しみである)。
筆者自身もそうだったのだが、『奇巌城』はルパンシリーズの代表作として、単独で読まれることが多い。だが、本作を読むとそうした出会いは不幸であったと実感させられる。
『奇巌城』は、森田の『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』で位置づけられているように、「アルセーヌ・ルパンの逮捕」から始まるルパンシリーズのひとつの集大成として読んだほうがより楽しめるはずである。
だから、本作を読んでルパンに興味がわいたら、ぜひとも『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ《登場編》』から順番にシリーズを読んでいってほしい。そのうえで『奇巌城』を再読すれば、筆者と同じ感動が得られるはずである。
『怪盗ルパン伝 アバンチュリエ』で次に登場するのは、「モーリス・ルブランの最高傑作」と呼ばれる『813』。
最高傑作を森田がどのように料理するのかを楽しみに待ちたい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)で国内本格ミステリ座談会とミステリコミックの年間総括記事等を担当。また現在発売中の、「ミステリマガジン」5月号(早川書房)でミステリコミックレビューを担当。