日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『銀平飯科帳』
『銀平飯科帳』 第3巻
河合単 小学館 ¥552+税
(2016年5月30日発売)
神田駅の近くで居酒屋「銀次」を経営する青年・武藤銀次は、創作料理の開発に精を出すもうまくいかず、店も閑古鳥が鳴いていた。
そんなある日、馬喰町の小さな稲荷で雨宿りをしたところ、拝殿のなかに奇妙な井戸があることに気づく。銀次が覗きこんだ瞬間に雷が落ち、転げ落ちると、なぜか文政3年(1820年)の江戸にタイムスリップ!?
焼き鳥の匂いにつられてフラフラと入った屋敷の住人で、将軍の膳奉行(料理番)を務める兄弟と知り合い、なりゆきで江戸の飯科帳=グルメガイドをつくることに。
てなわけで、美青年の長谷川平蔵とアチコチの街に赴き、江戸のうまいモノを堪能する銀平の日々がスタートする。
ここ数年、江戸時代や戦国時代へのタイムスリップものはマンガ界で大流行しているが、本作は主人公が行ったきりになるのではなく、井戸に入れば何度でも江戸と東京を往復できるのが新味。
銀次は知恵と工夫にあふれた江戸グルメにヒントを得て自分の店のメニューに活かし、客を呼びこむことになる。
一方、膳奉行の兄弟は類稀な味覚を持つ銀次の力を借りて優良店を開拓。
見たことのない未来のメニューも、銀次の調理で味わうことになる。
最新第3巻では、天ぷらそばを皮切りに、寿司、とろろ汁、フグの刺身、おでんといったメニューが登場。
なかでも注目してほしいのが寿司だ。当時は江戸前の握り寿司が流行り始めた頃で、あちこちに屋台が出ていたが、目から鱗の“うまい店の見分け方”を平蔵がレクチャーしてくれる。
また、当時の握り寿司が今よりも相当デカかったり、巨大な湯呑が指の洗浄用だったりと、現代の寿司とは違った作法がわかるのも興味深い。
終盤には白飯の食べすぎによる「江戸わずらい」のエピソードも。
「昔の庶民にとって、白飯はごちそうだったんでしょ」……という漠然とした印象を持っている方も多いと思うが、それは田舎の話。この時代、江戸の主食は白飯。
むしろ食いすぎなくらい江戸の住民は白飯をバクバクと腹に入れていた。
しかし精米にはビタミンB1が抜け落ちており、その結果、脚気(かっけ)=江戸わずらいにかかる患者が多かったという。
こうした江戸の食文化を“読まされる”のではなく、エンターテインメントのフィルターを通して伝えてくれる点が◎。
次巻では銀次が意気投合したメシ友の“家さん”(その正体は11代将軍・徳川家斉)がたいへんなことになりそうで、新展開にワクワクしております!
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。今秋公開予定の内村光良監督『金メダル男』の劇場用プログラムに参加しております。