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『ぶっこん~明治不可視議モノ語り~』 塩島れい 【日刊マンガガイド】

2016/06/25


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ぶっこん~明治不可視議モノ語り~』


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『ぶっこん~明治不可視議モノ語り~』
塩島れい 白泉社 ¥429+税
(2016年6月3日発売)


時代は明治初期――ガラクタ同然のものを拾い集めては、それに語りかける少年・修繕屋の天助。生家の道場が潰れて流浪の身となった少女・森嶋あやりは、天助と出会い、その不思議な力を目の当たりにする。

天助の手にかかれば、腕が折れた仏像も、腕が生えてきて直ってしまう。
九十九神(つくもがみ)というように、人の想いが強くこめられたものには魂が宿る。
天助は、そうした物の魂=物魂(ぶっこん)を見る能力を持っているのだ(天助が「眼鏡さま」と呼ぶ古めかしい眼鏡をかければ、あやりも物魂を見ることができる)。
物魂をいやすことで実体も直る――というのが修繕屋の天助の力の正体なのである。

ものは価値がなくなればガラクタとなる。
価値がなくなる=壊れてしまう、ということではない。ものとして完全な状態であっても、価値観が変わってしまうことで、物の存在意義がなくなってしまうことがある。
それが「廃刀令」以降の刀であり、明治時代初期に巻き起こった「廃仏毀釈運動」下での仏像たちなのである。
著者の塩島れいは、こうした史実・時代背景を押さえたうえで、物魂が取り持つ、あやりと天助の恋物語を描いている。

塩島れいは、本作が初コミックスとなる描き手なのだが、「奈良時代、幕末、近代史が大好き」なようなので、今後もこうした歴史物で我々を楽しませてくれることを期待したい。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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