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『乱歩アナザー ―明智小五郎狂詩曲―』 第1巻 江戸川乱歩(作) 薫原好江(画) 平井憲太郎(協) 【日刊マンガガイド】

2016/07/02


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『乱歩アナザー ―明智小五郎狂詩曲―』


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『乱歩アナザー ―明智小五郎狂詩曲―』 第1巻
江戸川乱歩(作) 薫原好江(画) 平井憲太郎(協) 講談社 ¥620+税
(2016年6月17日発売)


日本ミステリの祖・江戸川乱歩が亡くなったのは、1965年7月28日。
 そこで昨年(2015年)は乱歩歿後50周年として、小説の復刊やTVアニメ『乱歩奇譚』の放送、さらには『江戸川乱歩妖美劇画館』(全3巻)、『江戸川乱歩怪奇漫画館』、『江戸川乱歩猟奇漫画館』といったコミカライズ作品の再刊など様々なプロジェクトが立ち上げられたのだが、その余波は本年にも及んでいる。本書や『孤島の鬼』のコミカライズ作品(作画担当naked ape)の刊行があり、さらには〈少年探偵団〉シリーズのTVアニメも10月から放送開始されるようである。

さて、本書『乱歩アナザー』は、裏表紙の紹介コピーに「名探偵と怪人たちは夜に遊ぶ」とあるように、乱歩が生み出した「怪人たち」と名探偵・明智小五郎が対決していくという趣向なのであろう。
そして、今回明智が対決する「怪人」は怪盗・黒蜥蜴(くろとかげ)である。

宝石商・岩瀬氏のもとに、黒蜥蜴から愛娘・早苗の誘拐を予告する脅迫状が届く。
明智は、緑川少年とともに「Kホテル」において早苗の寝室の警護にあたるが、残されていたのは人形の首で、早苗はさらわれてしまっていた。
出し抜かれたように見えた明智であったが、着々と黒蜥蜴に対する包囲網を張っていたのであった……。

と、ここまでの作品紹介を読んで、原作を知る読者であれば、ある疑問を抱くだろう。
「緑川少年って誰? 緑川夫人の間違いじゃないの?」と。
ここが本書の興味深いところで、著者・薫原は黒蜥蜴を女装が似合う美少年に設定しているのである。
黒蜥蜴は、江戸川乱歩が1934年に発表した同題の長編小説に登場する女盗賊で、これまでにも映画・TVドラマ・舞台と様々なメディアで取り上げられている(そのなかでは三島由紀夫の脚本で、美輪明宏が黒蜥蜴を演じた舞台がもっとも有名だろう)。マンガでも、高階良子『黒とかげ』、JET『黒蜥蜴』などの作品がある。
それらの先行作があるなかで、薫原は黒蜥蜴を少年怪盗とすることで、独自性を出したわけである(また、本書には「怪人二十面相」が原作とは違った立場で登場している。「怪人二十面相」の今後の動きも気になるところである)。

また、明智小五郎の描かれ方も特徴的である。
映画であれ、舞台であれ「黒蜥蜴」において明智小五郎が登場する場合には、紳士的で、大人の風格を持った名探偵として描かれてきた。
しかし、薫原好江は、線の細い美青年として明智小五郎を描いている(薫原のこれまでの作品『男の子には秘密がある』や『キス・アンド・ライド』と同様のタッチである)。

明智を線の細い美青年とし、黒蜥蜴を美少年としたことで、黒蜥蜴VS明智、あるいは黒蜥蜴VS小林少年という場面では、必然的に同性愛的な雰囲気が漂ってくる。
こうしたテイストはTVアニメ『乱歩奇譚』でも感じられたし、naked apeによるコミカライズ『孤島の鬼』でも前面に押し出されているので、筆者などは「江戸川乱歩って、それだけじゃないんだけど……」と嘆じる気持ちもあるのだが、それもまた乱歩の今風の読まれ方なのであろう。
本書が入り口となって、“それだけじゃない”乱歩ワールドに関心を持つ読者が増えてゆくことを期待したい。

「Kホテル」での攻防後、早苗は再度黒蜥蜴の囚われの身となってしまう。
早苗を救うべく、明智は単身、黒蜥蜴の隠れ家である汽船に潜入するのだが……というところで第1巻は幕となる。
今秋発売予定の第2巻で、黒蜥蜴編がどのようなフィナーレを迎えるのか気になるところである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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