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『天賀井さんは案外ふつう』 第2巻 城平京(作) 水野英多(画) 【日刊マンガガイド】

2016/07/17


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『天賀井さんは案外ふつう』


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『天賀井さんは案外ふつう』 第2巻
城平京(作) 水野英多(画) スクウェア・エニックス ¥571+税
(2016年6月22日発売)


アニメ化もされた人気作『スパイラル ~推理の絆~』の城平京×水野英多のコンビの最新作。原作者・城平京によれば「日常系伝奇コメディ」を目指したとのことだが、どのように受けとるかは読者次第であろう。

作品の舞台となるのは、常伊市(とこいし)という架空の地方都市。
六百年前に「バランバラン」と「タタイタタイ」という化け物が現れたという伝説が残る街である。2匹の化け物は、亡くなる際に、自分達の体を形見として分けるように願い、それを持つ家には幸せが続くだろう、といいのこした。そして、常伊市の住民たちは、今も家々で化け物の形見を大事に守り続けている。

そんな常伊市の市立常伊高等学校に天賀井悠子という少女が転校してきた。
彼女は、おとなしい風情の眼鏡っ娘で、ごくごく普通の転校生だと思われていたのだが、転校の理由が変わっていた。
彼女は「実家で兄が座敷牢に入っているから」転校してきたのだという。
さらに、天賀井さんは、兄は撲殺事件の嫌疑をかけられており、自分はその調査のために常伊市にきた、という説明を加えるのだが、同級生からは当然のごとくドン引きされてしまう。

その様子を憂慮した副担任の西陣夕陽は、天賀井さんをとある部活動に勧誘する。
それは「郷土史維持管理部」というもので、「バランバラン」と「タタイタタイ」の形見の管理状況を把握して、毎年その状態を確認・記録する――という、この市ならではの部活動である。
入部の条件は、回転式抽選器を回して赤玉を出す、というものだが、抽選器のなかには赤玉はひとつしかなく、残り99個は白玉なので、入部の確率はわずか1%! しかし、天賀井さんは、これをクリアして入部を果たす。

「郷土史維持管理部」には、同じクラスの真木正輝もおり、天賀井さんは部活動にいそしみつつ、真木とともに兄が関連した撲殺事件の真相を探っていくのである(そして、第2巻では過去の撲殺事件に真木もかかわっていたらしいことが明らかになる)。

本書に関しては「天賀井さんは、部活動にいそしみながら、身内がかかわった事件を追及していく」と、ごく普通の学園ものサスペンスのようにもまとめられる。
実際のところプロットは、上記のとおりのストレートなものなのだが、世界の設定やキャラクターたちが紹介してきたように非常に変わっており、それが本書の楽しみどころとなっているのだ。

これまでの流れからすると、こうなるだろう――という読者の読みをはずして驚きを与えるのがミステリの常道である。そして、手練れのミステリ書きである城平京は、ミステリの手法を応用して、読者の予測をはずし、そこで読者を驚かせるのではなく、笑わせているのである(筆者は、本書は「日常系伝奇コメディ」という狙いどおりに仕上がっていると評価している)。
そうした城平京の独特の「間」を生かしているのが、水野英多の作画で『スパイラル ~推理の絆~』で長らくタッグを組んだ実績を生かして、息の合ったところを見せているのである。



<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。

単行本情報

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