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【日刊マンガガイド】『続 数寄です!』第1巻 山下和美

2014/07/08


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『続 数寄です!』第1巻
山下和美 集英社 \905
(2014年6月25日発売)


「和風」ではなく「和」が好きな著者が、あるパーテーィーで出会った能雑誌の関係者、蔵田徹也。話しぶりと書いているものから「じいさん」という印象すら与える彼だったが、じつはまだ20代の若者で、しかも本業は建築家。
その出会いをきっかけに、和美は都内に「和そのもの」である「数寄屋造り」の一戸建てを建て、数寄者(和の心を持ち、とくに茶の湯に造詣が深い人物)となることを決意するが……。

本作は、作者初のエッセイコミック『数寄です!』の新章。
前作で実際に数寄屋造りの一戸建てを建てたのち、そこでの「和」な暮らしぶりが描かれている。

数寄屋造りとは、「お茶室から始まったわびさびの文化の代表」。
同じ日本建築である。「書院造り」が、もともとは武家の建築様式であることから、なにより格式を重んじるのに対し、数寄屋造りは風流を求め、建物に遊びを出す。
『数寄です!』での蔵田氏いわく、「現代に当てはめれば 都会の中でも山中にいるような静けさを感じたい…… その想いが洗練されたのが数寄屋だと思います」。蔵田氏の言葉は「山下さんも 山下さん自身の数寄屋を見つけられれば いいですね」と続くが、建ててからも引っ越し作業や内装工事で、てんやわんやの山下の姿は、風流とはほど遠いバタバタぶり!

もちろん、そんななかにも、ちゃんとわびさびが存在するのが、山下作品ならでは。
代表作『柳沢教授の生活』『不思議な少年』でも、日常にある奇跡、生きることの哲学が情感豊かに描き出されているが、本作においても、ゴキブリをめぐって、生きとし生けるものを愛でた僧侶にして数寄者の良寛に思いを馳せてみたり、「この家のファンでーす」という近所の小学生女子たちと触れ合ってみたり……。
さらには、床の間に飾るものを自ら作るべく、なんと掛け軸作りも習い始めることに!
家造りや部屋の飾り付けは、それだけでも興味深い題材だが、本作では、その楽しさだけでなく、作者がその中で見出した驚き、発見、感慨が、味わい深く、丁寧に描写されている。

そもそも作者が数寄屋を建てたのは、日本文化を知り、なおかつマンガ以外なにも知らずにきた自分自身を、大人として成長させるため。大人になっても……いや、大人になったからこそ知ること、わかること、身に染みることもあると、本作は教えてくれる。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。

単行本情報

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