日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『いい百鬼夜行』
『いい百鬼夜行』
川西ノブヒロ 講談社 ¥900+税
(2016年6月23日発売)
妖怪は日本人にとってなじみ深い存在だ。
私たちは古くから自然現象や、日常に潜む不可思議な出来事を妖怪のせいだと考えてきた。
私たちの暮らしによりそった存在、妖怪。そんな彼らを優しく描いたのが『いい百鬼夜行』だ。
twitterでの配信という連載形式から、1つひとつのエピソードは3、4コマ、もしくは1Pマンガの体裁をとっており、さくっと読むことができる。短いからこそ妖怪たちの優しさがスッと胸にしみるのだ。
美鶴町には強面だが優しいなまはげに、猫カフェでアルバイトに勤しむねこまた様、死んでからのほうが生き生きしている女子高生の幽霊など、ちょっとおかしな妖怪たちが人々といっしょに暮らしている。
なまはげの紹介文には「事情を聞いてあげる」とある。涙がでるほどつらい時は、だれかに話を聞いてもらいたいもの。アドバイスなんてなくたって、つらいときにだれかがそばにいてくれるだけで、人はまた立ち上がることができるのだ。
なまはげ同様、ほかの妖怪たちも特別な力をふるうようなことをしない。
ただ人々のそばで、人々を優しく見守ってくれるよき隣人なのだ。
個々のエピソードは独立しているものの、舞台はどれも美鶴町。
読み進めると、登場人物にかすかなつながりがあることが見えてくる。そんな発見も本作の楽しみのひとつだ。
注目したいのは、死んで生き生き女子高生幽霊のれいちゃんだ。
じつは彼女、ある登場人物の姉。物語の1年前に行方不明になったとされ、今でも捜査は継続中。しかし幽霊として登場している以上、彼女はもう……。
優しい雰囲気につつまれた本作唯一の、そしてバッドエンド不可避な不安要素。彼女をめぐりバラバラに描かれていたキャラクターたちが一堂に会し、物語が収束していく様子は圧巻。
衝撃のラストはぜひその目で確かめてほしい。
<文・籠生堅太>
なんでも屋。イリーガルなお仕事以外は、だいたいなんでもやります。読むと元気になれるマンガが好きです。
Twitter:@kagoiki