日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『双亡亭壊すべし』
『双亡亭壊すべし』 第1巻
藤田和日郎 小学館 ¥429+税
(2016年7月12日発売)
『うしおととら』や『からくりサーカス』などの大ヒット作を手がけた少年マンガの巨匠・藤田和日郎の新作『双亡亭壊すべし』の第1巻がついに発売された。
多くのファンが待ち望んでいた新作は、作者の得意とするモダン・ホラー!
「このマンガがすごい!WEB」で『ゴースト アンド レディ』のインタビューをおこなった際には、次回作の構想もお聞きしているだけに、その期待値は否が応にも高くなっていたところだ。
今作の舞台となるのは、現代日本。
タイトルにもある「双亡亭」とは、どの町にも一軒くらいはある<幽霊屋敷>である。
この屋敷がいつ頃から存在するのかは不明だが、ほかの<幽霊屋敷>と同様、侵入者が失踪したなどの都市伝説がついてまわる。
しかし、そんな「どの町にもある」レベルの<幽霊屋敷>だったら、「壊すべし」とはならない。
なにしろ双亡亭は、総理大臣が爆撃命令を下すほどの「壊すべし」案件なのである。
爆撃も解体作業もモノともせず、 双亡亭はいつもどおりに建ち続けているのだ。
この大規模な爆撃行動により、双亡亭の存在は「都市伝説」レベルから、一気に白日のもとにさらされ、全国民が知るところとなる。この屋敷には、いったいどんな謎が隠されているのか?
そんな双亡亭破壊命令と並行して、45年前に行方不明になっていた旅客機が突如として出現。
機内にはボロボロの子ども……凧葉青一(たこは・せいいち)が乗っていた。双亡亭に父を「食われた」少年・立木緑朗(たちき・ろくろう)は、青一と行動をともにし、双亡亭の破壊を心に誓うのであった。
そして緑朗のおとなりさんだった凧葉務(つとむ)は、緑朗の姉である紅(くれない)とともに、政府の特別工作班として、緑朗と青一を追う。緑朗・青一チームと、務・紅チームが、それぞれ別の行動指針で、最終目標「双亡亭壊すべし」に向かってスイングしていくところが、本作の醍醐味となっていくものと推測される。
第1巻は、双亡亭と主要キャラクターの“顔見せ”的な意味あいが強い。
とはいえ、ストーリーを物語るウェルメイドな手触りと、アクションや怪異を描く際の“いびつさ”が同居している、いつもの“藤田節”は健在で、エピソード単位でグイグイと読者を引きこみながら“顔見せ”を展開していく。1話を5分で読み終えるようなスピード感と、何時間も眺めひたっていたくなる濃密さが両立しているのだからこたえられない。
藤田和日朗の描く少年たちが夜を疾駆する姿は、なんてロマンチックなんだろう。
僕たちはそこにドラマとスペクタクルを予感する。
来週はまだか、次巻はまだか。
少年マンガに心躍らす季節が、またやってきたのだ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama