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今回紹介するのは、『多重人格探偵サイコ』
『多重人格探偵サイコ』 第24巻
大塚英志(作) 田島昭宇(画) KADOKAWA ¥580+税
(2016年7月4日発売)
休載期間をはさみつつも、足がけ19年におよぶ連載がついに完結。なによりもまず、その長きにわたる物語が終わったことが感慨深い。
そのスタート時点では、あまりにもショッキングな猟奇的事件と、田島昭宇の持ち味であるクールなタッチという取りあわせに注目が集中。熱狂的な支持を得る一方で、いくつかの地方自治体で有害図書指定を受けるなど、文字どおりに「賛否両論」をまき起こした。
しかし、なにかとセンセーショナルな面が取り沙汰されがちな作品ではあるが、「人格の移転」というギミックや、それに伴って主人公そのものが変わってしまうトリッキーな展開も、本作の極めて魅力的な要素であった。
そんな衝撃的な物語も、最終巻は非常におだやかな男女の関係へと収れんしていく。
前巻では精神世界でのバトルという特殊な状況だったゆえか、ヒーローものや『パシフィック・リム』をほうふつとさせる描写も盛りこまれたことに驚かされたが、ラストがこれほど軟着陸を迎えたことも、ある意味では予想外だったかもしれない。
ともあれ、率直にいえば最終巻だけ読んだところでまったく意味をなさない物語ではあるので、この完結を機に、最初から『多重人格探偵サイコ』の世界を再びたどってみることをおすすめしたい。
そうすることで、幾重にも重なりあった人物相関図や複雑怪奇な事件の構造から、新たに見えてくることもあるだろう。
そして、あらためて「終わった……」と、様々な感情や余韻を味わいたい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。