日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ピンキーは二度ベルを鳴らす』
『ピンキーは二度ベルを鳴らす』 第1巻
うめざわしゅん 小学館 ¥552+税
(2016年7月12日発売)
昨年暮れに、コミックス未収録の読み切りを集めた『うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下』を刊行してファンを狂喜させたうめざわしゅん。
あれから7カ月というスパンで新作が刊行されるなんて、とても素敵な奇跡だ。
この『ピンキーは二度ベルを鳴らす』は、これまでのうめざわ作品と少しおもむきが異なる。
市井の人々を主人公にして、読み手の倫理観や死生観を揺さぶるのではなく、“リトルピンキー”と呼ばれる小人症のヤクザという、しっかりとしたキャラクターを持つシリーズ連作だ。
2011年に刊行された『一匹と九十九匹と』第1巻に収録された「オーバードーズ」で初登場したピンキーは、いきなりかっこよかった。ストライプのスーツをビシッと着こなし、葉巻をくわえながら、聾唖の相棒“チーフ”を連れて、颯爽と歓楽街を闊歩するピンキー。
彼の体躯を見て「すげぇ小っちゃい、おっさん発見~~!」とちょっかいをかけてくる若者に対して微動だにせず、硫酸が入った試験管をちらつかせながら毅然とした態度で黙らせるシークエンスに一発でしびれた。
そう、ピンキーのもうひとつの通り名は“硫酸ピンキー”。彼のことをコメディリリーフと決めつけてかかる連中に“深刻な人間”だとわからせるためのアイテムが硫酸なのである。
以降、うめざわはピンキーを主役に据えた読み切りを「週刊ビッグコミックスピリッツ」と「月刊!スピリッツ」に散発的に発表する。本作はこの5年間半に発表されたピンキーシリーズを、まとめたものだ(「オーバードーズ」も再収録)。
どのエピソードも厄介な仕事をピンキーが請けおい、ワケありな女たちを結果的に助けることになる。表面上は対等に話していても、基本的には“チビ”となめている連中の心の内を見透かし、粋なセリフで次々に欺瞞をあぶり出していくピンキーのダンディズムがたまらない。
うれしいのは第1巻とナンバリングがされていること。
時間はかかるかもしれないけど、またピンキーに会える日を楽しみに待ちたい。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。今秋公開予定の内村光良監督『金メダル男』の劇場用プログラムに参加しております。