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『うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下』 うめざわしゅん 【日刊マンガガイド】

2016/01/18


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下』


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『うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下』
うめざわしゅん 太田出版 ¥1,400+税
(2015年12月11日発売)


読みながら自分は今、ものすごいものを読んでいるのではないか……という興奮がふつふつとわきあがってくる。
うめざわしゅんの2001年~2015年にわたる読みきり9編を収録した『パンティストッキングのような空の下』。

三上とひろしのコンビ+アイちゃんのぶさいくでせつない青春を描いた表題作。
デビュー当時の新井英樹を彷彿とさせる、パンクな躍動感みなぎる荒々しいタッチの絵。不意に放たれる「憎しみの連鎖は断ち切れないのでしょうか」「素晴らしき現代社会! その結果どいつもこいつも精神的インポテンツってわけだ」といった、ペシミスティックかつ哲学的な台詞にシビれる。

天使のように無垢だが、じつはメンヘラのシングルマザーのサクラ。
父親を拉致された過去から反韓運動にのめりこむ、その兄。毎日100円バーガーを8個食べながらゴミ回収の仕事をする佐々木。
幼女への強制わいせつで補導された過去をもつガチロリ青年・洋ちゃん……。

けっして悪人ではないが、愚かで不器用で鬱屈したものを抱えた「持たざる者たち」のドラマは、面影ラッキーホールの歌世界さながら。
「平凡で幸福な人生」を望みながら、いやおうなしに不幸に呑みこまれてゆく彼らの姿は、滑稽ながらもせつなく、胸をしめつける。

圧巻なのが、ラスト収録作『唯一者たち』のエンディングのモブシーン。
「なんで俺だけが…なんで俺は…生まれてきたのか…」と嗚咽する洋ちゃんが、ルイの言葉により、初めて「自分以外の自分」に目を向ける。

世のなかはあいかわらずクソみたいで、人生はどう努力しても変えようのない不条理に満ちている。
でも、それはだれだってそうじゃない? と気づいたとき、世界がほんの少しだけ変わってみえる。

そんなハッピーエンドでは決してない。絶望と希望がないまぜのなかにもあたたかな光を感じさせる読後感は、橋口亮二監督『恋人たち』にも通じるモノあり。
万人を楽しませるマンガでは決してないが、ある種の人には間違いなく、生きる糧となりうる1冊だ。

補足だが、『パンティストッキングのような空の下』というタイトルは、三上寛の楽曲にちなんだもの。それ意外にも作中の斉藤哲夫、石井たかし、江戸明美……といった固有名詞にピンときた人は、もれなく必読です。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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