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今回紹介するのは、『福満しげゆき初期作品集 娘味』
『福満しげゆき初期作品集 娘味』
福満しげゆき 青林工藝舎 ¥900+税
(2015年11月30日発売)
福満しげゆきのデビュー作「娘味」を原作にした映画『フリーキッチン』の公開を受けて発売された初期作品集。
『娘味』に加え、短編集『10年たって彼らはまた何故ここにいるのか…』の収録作、そして描きおろし最新作「さらに10年たって彼らはまた何故ここにいるのか…」、雑誌での読み切り数作品で構成されている。
「娘味」は、母親の支配下にある息子が恋人の出現により「母親殺し」をなとげるという物語に、「人肉食」というキーワードが絶妙に絡み合ったブラックユーモア。
デビュー作としては意外なほどよくできた作品だが、私小説漫画家として唯一無ニのポジションを築きあげた現在の彼を知っていれば、別に福満しげゆきじゃなくても……という感もあり。まだオリジナリティを模索していた様子もうかがえて、興味深い。
「10年たって彼らはまた何故ここにいるのか…」の作品群は、版元が幻堂出版というインディーズなこともあり、ファンの間では入手難の名作として語られていたもの。
ロボットを相手にえんえん愚痴と自己嫌悪をこぼし続ける少年は、まぎれもなく福満しげゆき自身であり、現在の作風の原点が確認できる。
そして、これを受けた描きおろしが「さらに10年たって彼らはまた何故ここにいるのか…」。
過去の作品を振りかえり、顔から火が出ると言いながらも「これを描いたときの19歳のときの自分と今……これが恥ずかしい39歳の自分と……どっちがあれなのかな~……」とあいかわらずの自己嫌悪をぶちまける姿に、福満しげゆきのブレなさを再確認。
3ページぎっちり埋め尽くす、著者あとがきも含めて、ファンならば必読だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69