日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『めしばな刑事タチバナ』
『めしばな刑事タチバナ』 第22巻
坂戸佐兵衛(作) 旅井とり(画) 徳間書店 ¥560+税
(2016年7月30日)
城西署の刑事・立花が、B級・C級グルメについての幅広いウンチクを語るマンガで、2013年に佐藤二朗の主演によりドラマ化もされたヒット作。
「週刊アサヒ芸能」(徳間書店)という、マンガとしてはマイナーな媒体で連載されながら、「このマンガがすごい!2012」(オトコ編)では第9位に食いこみ、シリーズ累計でミリオンセラー街道をばく進中である。
本書の特徴としては、各巻には必ず中心となる題材があり(それは「立ち食いそば」であったり「ポテトチップス」だったりと様々だ)、それはサブタイトルでうたわれる。
第22巻のサブタイトルは[ワンタンメン・ワンダー]――今回メインで取り上げられるのは、ワンタンメンなのである。
ワンタンメンと聞いて、「最近ワンタンメンをラーメン屋でみかけなくなったな」とピンと来た人は、食に関する感度がかなり高い人だろう。
ここで立花は、ワンタンメンを「ワンタンメンくん」と擬人化し、ラーメン界において独自の地位を築きつつある、タンタンメンやタンメンと比較して、なぜワンタンメンが凋落していったかを語るのである。
このように食を語る際の比喩の巧みさが『めしばな刑事タチバナ』の真骨頂だ。
ところで第22巻では、ワンタンメンに関するエピソードが中心になるのだが、ラストに収録された「男の規律」というエピソードも、じつに秀逸。
この回は、食に対して異常なこだわりを見せ、立花としばしば論争を繰り広げる城西署の刑事課長の韮沢が主人公だ。
IT機器を導入して捜査効率を上げようと主張する若手刑事たち。一方、韮沢は食と同様にこだわりを見せる。昔ながらの捜査スタイルに固執して、主張を曲げようとしない。
そんな韮沢が、カップ焼きそば(ペヤングソースやきそば)を食べ、容器の湯切り口を見て、新しいやり方もいいじゃないか、と考えを変える――そんな物語である。
何が韮沢の気持ちを動かしたのか? それは実際に読んで共感していただきたいのだが、このエピソードは、一話のなかに食に関するウンチクを「これでもか、これでもか」とつめこんだ通常の『タチバナ』エピソードと異なったつくりになっている。
ごく普通のドラマを描きながら、物語の核に食のウンチクを持ってきて、話をオトす、というパターンの作品なのだ。
立花をはじめとする登場人物たちが繰り広げる、食に関するこってりした論争で、ちょっとした膨満感を覚えたココロをやわらげるあっさりしたエピソード。
立花の決めゼリフを借りれば「お前さんやるじゃないの!」という感じである。
次巻以降、どんなウンチクが登場し、それがどのような物語に化けるのか、非常に楽しみである。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。