日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『罵倒少女』
『罵倒少女』
mebae KADOKAWA ¥920+税
(2016年8月9日発売)
この本、読むだけなら5分かからない。
けれど性癖がハマった人なら、何十回と読みなおすはずだ。
マンガでも小説でも絵本でもない。かなり特殊な仕様の本だ。
セミロングの美しい少女がひたすら罵倒してくる。
「臭いよお前……」
「この世で一番価値のないもの知ってるか? お前だよ」
「せめて人間の言葉でしゃべってくれる? 分かんない豚語」
彼女に罵られる体験をするための作品なのだ。
まず少女の目線がいい。まっすぐに見つめてくることがない。さげすんだ目、汚いものを見る目。
眉をしかめ、口をひしゃげ、心底うんざりした顔。
きどる必要が無いので、身体は脱力しており、女体の柔らかさがにじみ出ている。
彼女は「罵倒する」ことでコミュニケーションを取っている。
基本的にツンデレ要素はない。本当に嫌いなら無視をすればいいのに、彼女は必ずくってかかってくる。
これが「特別な間柄だから」というSM要素をほんのり匂わせるのがたいへんエロティック。
性的な交わりを匂わせながら、罵倒する・されるの関係のまま物語がフェードアウトしていくのも、味がある。ちゃんと青春物語している。
#2では見せ方が変わり、30秒アニメーション作品として制作されたコマをぎっちりページにつめこんでいる。
ショートカットの後輩が告白してくるところからスタート。
「もう人類でセンパイのこと好きな人なんていないんじゃないかって思うんですけど……」
「わたしは好きっス」
それを受けいれ、彼女の話を聞く。彼女はさらに激しく罵る。
言葉こそいびつだが、会話はちゃんと成立し、双方の愛情が見えてくる。
#1のキャラクターは、対話型人口知能(AI)[PROJECT Samantha](β)版『罵倒少女:素子』として、試験的に運用された。
罵倒とはコミュニケーション。
フリースタイルラップのように、相手にあわせて言葉を紡ぎだすのは、相当な努力だ。
一つひとつの単語は、考えられており、意味を持つ。
「僕は罵倒されるたびに 素子の優しさに触れるのだ。」という一文に、彼女の言葉すべてを受け止めるマゾヒストの矜持と癒えが見えてくる。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」