日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『少女不十分』
『少女不十分』第1巻
西尾維新(作) はっとりみつる(画) 講談社 ¥565+税
(2016年5月6日発売)
青年が、1週間少女に監禁される話だ。
となると、時間がたつにつれ場面はまったく変わらなくなる。小説ならともかくマンガでどうすんの。
しかしこれをやってのけたのが本作だ。
「作家を目指すような酔狂な脳の持ち主」である青年のイメージを巧みに使って、一歩も動かない物語に緊迫感を持たせたミステリになっている。
少女「U・U」(彼女の本名は「物語ではなく出来事であり事件」であるため、伏せられている)は長い黒髪で、表情がほとんど見えない少女として描かれている。
着ている服はとても子どもっぽい。ランドセルが大きく見えるほど体は小さく、手に力はまったく入らなさそうだ。腕や足は折れるほどに細い。腰回りはあまりにも華奢だ。
頭の先から足の先まで、身体のラインが枝のようにしなやかな曲線を描いているのも特徴的。
もっとも目をひくのは、唇。紅をさしたように、艷やかだ。とても幼いのに、強烈な「女」のにおいを放っている。
彼女に監禁されてから、青年が脱出するタイミングはいくらでもあった。 縛られているわけではない。身ぐるみ剥がされてもいない。最初は「U・U」に彫刻刀を突きつけられていたけれど、物置に閉じこめられてからは、力ずくで飛び出すことも、携帯電話で助けを求めることもしていない。
半自伝的原作のテーマである、彼女をきっかけに青年が変わっていく様を押さえながら、マンガでは「U・U」の人を惑わす魅力の表現にエネルギーが注がれている。
彼女の蠱惑的(こわくてき)な瞳。扉絵に描かれる少女のはかなげな姿。
作者が「少女」という言葉に感じた神秘性を、惜しげもなく詰めこんでいる。
友だちがトラックにはねられても表情を変えず、怒鳴りちらすほど執拗にあいさつにこだわる少女「U・U」。マンガ化されたことで、人を惑わすような魅力がいっそう引き立った。
彼は追いつめられているわけではない。
作中でひとりになる時、自分のあり方をゆっくり考えるのだ。
原作は西尾維新の半自伝的作品。
西尾維新の想像力がたくましいからこそ成り立っている。
表紙の少女の目が気になった人は、青年がとどまった心理に共感できるかどうかは、わからない。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」