複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「JS=湘南新宿ライン、JC=中央線快速・青梅線・五日市線、AKB=秋葉原」について。
『PとJK』第1巻
三次マキ 講談社 ¥429+税
(2013年4月12日発売)
「JS→JC→JKと乗りかえて、AKBにたどり着くんですよッッ!!!!」
興奮した宝島社の編集部員が、猛烈な勢いで訴えかけてきた。
ああ、コイツとうとう手が後ろにまわるのか。
そう思いながら電話口に耳を傾けていると、そうではないらしい。
どうやら鉄道の話のようだ。
先週、JR東日本は「駅ナンバリング」を導入すると発表した。駅ナンバリングとは、路線と駅をアルファベットや数字で表示する制度である。
たとえば山手線なら「JY」、東京駅なら「TYO」といった具合だ。
なんだかスパイの暗号みたいだけど、そもそもは複雑な首都圏交通網を理解しやすくするように意図されたものである。
とりわけ2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催時には数多くの外国人観光客が来日すると予想されるので、それを見越しての制度導入となったわけだ。
では冒頭の「JS→JC→JKと乗り換えて、AKBにたどり着く」とはどういった意味合いなのか?
今回はこの謎の暗号文を、駅ナンバリングで解き明かしていきたい。
それでは出発進行。
汽笛一声SMBを、はや我が汽車は離れたりッ!!
『ひとり暮らしの小学生 江の島の夏』
松下幸市朗 宝島社 ¥700+税
(2016年5月25日発売予定)
※書影はkindle版。現在、絶賛単行本作業中です。
まず最初に「JS」とは湘南新宿ラインである。
湘南新宿ラインとは、神奈川県の湘南地域から新宿を経由して埼玉方面へと延びていく路線だ。
また、俗語では「JS」は「女子小学生」の略号としても使われる。
『ひとり暮らしの小学生』(松下幸市朗)は、女子小学生が湘南で食堂を営む4コママンガである。
交通事故で両親を亡くし天涯孤独になった小学4年生の鈴音リンは、ひとり江の島で食堂を営みながら暮らす。
けなげに一生懸命働くリンの姿にしんみりさせられることもあるが、基本的にはほんわかとしたゆるふわ日常系のテイスト。舞台が1980年代なので、いま風のハイテク機器やガジェットが作中に登場しない点も、現代とは違う牧歌的なファンタジー感をかもし出す。
『シティーハンター』第12巻
北条司 集英社 ¥390+税
(1988年2月発売)
次に「JC」とは、中央線快速のことだ。
「JS」から「JC」には、新宿で乗り換えることになる。
そして世間で「JC」といえば、これはもう文句なしに「ジャッキー・チェン」である。
ジャッキーが主演したマンガ原作の映画といえば、もちろん『シティーハンター』だ。原作では、主人公・冴羽僚は新宿を根城にする凄腕のスイーパー。新宿アルタ口の伝言板に「XYZ」と書くことが、シティーハンター=冴羽僚に依頼をする合図となる。
コミックス12巻収録の「出逢って恋して占っての巻」では、冴羽僚はタレントデビューをひかえたキャンペーンガール・手塚明美の身辺警護を依頼される。
手塚明美はナイスバディの美人だが、化粧を落とすと童顔のまだ15歳。作中時間は3月23日なので、彼女は「JC」(女子中学生)である。主人公がJC相手にモッコリするのだ。おおう。
ちなみにジャッキーが主演した映画版では、作中で『ストリートファイターII(ツー)』のゲーム筐体に激突した僚(=ジャッキー)がエドモンド本田に変身。敵役のキムはケンに変身し、2D格闘アクションを展開する。
この摩訶不思議なシークエンスでは、最終的にジャッキーが春麗へと進化するので、ジャッキーの貴重な春麗コスプレ姿を見ることができる。眼福である。
なお、キム役を演じたゲイリー・ダニエルズは、本作『シティーハンター』以外にもハリウッド版『北斗の拳』や『TEKKEN -鉄拳-』に出演。いわば「クールジャパンの三冠王」だ。
『こちら葛飾区亀有公園前派出所』第121巻
秋本治 集英社 ¥390+税
(2000年9月発売)
そして「JK」は京浜東北線である。
「JC」から「JK」には神田で乗り換える。
マンガの世界で神田にある名店といえば、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』に出てくる「超神田寿司」だろう。
「超神田寿司」は両津家の縁戚の擬宝珠家が経営しており、一時期は両さんも住みこんでいた。
そして両さんの再従妹(はとこ)にあたるのが、両さん同様に警察官になった擬宝珠纏だ。
単行本121巻収録の「聖橋白線流しの巻」では、纏が警察官になった経緯が明かされる。
名門女子校の桜稟大学附属高校に通っていた纏は、ある理由から、エスカレーター式の大学には進学せずに警察官を志すようになった。
そのため、この回では纏の「JK」(女子高生)姿を拝める。
ちなみに「JK」がアイドルになって活躍する『ラブライブ!』には、神田明神が出てくる。出演声優によるユニット「μ's」が紅白歌合戦に出演したり、東京ドーム公演をしたりと、ナニかと話題の多い作品だが、神田明神は最寄り駅としては秋葉原のほうが近い。
惜しい!
ちなみに「AV」という駅ナンバリングの路線はありませんのであしからず。
『トランジスタ・ティーセット ~電気街路図~』第1巻
里好 芳文社 ¥590+税
(2009年3月12日発売)
さてさて「AKB」といえば、もちろん秋葉原のことである。
秋葉原駅の駅ナンバリングにおけるスリーレターコードは「AKB」になった。
神田からJKで一駅行けば、そこはもうAKBなのだ。
秋葉原を舞台にした作品には『トランジスタ・ティーセット ~電気街路図~』(里好)がある。
主人公の半田すずは、電子工作や回路組みが大好きな「JK」(女子高生)。亡き祖父から電子部品を扱う商店を引き継ぎ、鉄道の高架線下を利用した架空の電気街「秋葉原無線商店街」で「半田無線」を営む。
この「秋葉原無線商店街」には「半田無線」以外にも小さな電子機器を扱う商店が軒を並べており、秋葉原のラジオセンターを想起させる。
まさしく「電気街としての秋葉原」にスポットを当てた作品だ。
第1巻では戦前に存在した国鉄万世橋駅を扱ったエピソード「万世橋駅で逢いましょう」、第2巻ではかつて存在した駅前広場のバスケットボール・コートを舞台にしたエピソード「駅前広場のハーフコート」があり、秋葉原という街の変遷が作品世界のバックボーンとなっている。
東京は、たとえば学生街やオフィス街、風俗・歓楽街や古書店街、かっぱ橋のような道具屋街と、街ごとに特性がハッキリと区分けされている。
そのなかで秋葉原は、市場、闇市、電子部品、家電、ゲーム、同人ショップ、フィギュア、メイド喫茶、アイドルと、街の特性を常に変化させてきた特異な地域だ。
そんな秋葉原の、変化してきた部分と変わらない部分にスポットを当てているところが、本作『トランジスタ・ティーセット ~電気街路図~』ならではのスペシャリティといえる。
『AKB49 ~恋愛禁止条例~』第1巻
元麻布ファクトリー(作) 宮島礼吏(画) 講談社
(2010年12月17日発売)
そんな変わりゆく街・秋葉原の現在のトレンドといえば、やはりアイドル文化だろう。
『AKB49 ~恋愛禁止条例~』は、AKB発のアイドルグループ「AKB48」を題材にした作品だ。
主人公の高校生・浦山実(うらやま・みのる)は、同級生の吉永寛子に思いを寄せている。
彼女のAKB加入という夢をバックアップするため、じつは女装して「JK」(女子高生)の「浦山みのり」としてAKB研究生のオーディションを受けたところ、なんと合格! 寛子とともに12期生研究生として正式メンバーになることをめざす。
前田敦子や大島優子など、当時の主要メンバーが作中に登場し、じつは彼女たちとも親交を深めていく。
……とまぁ、DT(駅ナンバリングではありません)の夢を煮しめたような設定だが、割と体育会系的なノリなので、スポーツマンガ・チックというか、厳しいショウビズの世界で成り上がっていくサクセス・ストーリーとしても楽しめる。
秋葉原にあるAKB劇場の沿革やAKBの歴史、実際に起きたエピソード(定員250人の劇場に客が7人しか入らなかったとか!)が作中でも扱われるので、AKBについての知識が乏しい読者でも安心して読み進められるハズだ。
ここまで見てきたように、冒頭の「JS→JC→JKと乗り換えて、AKBにたどり着く」とは、「湘南新宿ラインで新宿まで出て中央線快速に乗り換えて神田まで向かったら、そこで京浜東北線に乗り換えて秋葉原に行く」という意味になる。
なるほど、それなら安心だ。
だが、ひとつだけ言っておきたい。
湘南地域から秋葉原に行くのなら、東海道本線(JT)で東京駅まで出て京浜東北線に乗りかえるほうが早いぞ。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama