日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『掟上今日子の備忘録』
『掟上今日子の備忘録』第1巻
西尾維新(作) 浅見よう(画) VOFAN(キャラクター原案) 講談社 ¥600+税
(2015年10月16日発売)
眠ってしまうと、すべてを忘れてしまう探偵――と聞くとなんとも頼りない感じだ。
しかし、記憶が一日でリセットされてしまうがゆえに、どんな事件でも一日で解決すると聞けば、何をおいても依頼したいと思うだろう。
そうした最速の事件解決能力を誇る“忘却探偵”掟上今日子を主人公としたのが、本作『掟上今日子の備忘録』である。
トラブルが起こるたび、理由もなく犯人扱いされてきた不運な青年・隠館厄介。
今回も勤務先で重要なSDカードが紛失したら、真っ先に疑われた。疑惑を晴らすため、厄介は探偵に助けを求める。やってきたのは総白髪で丸いフレームのメガネをかけた若い小柄な女性――置手紙探偵事務所の所長・掟上今日子であった。
1日で記憶がリセットされるのは困った点もあるが、どんな機密情報に接しても一日で忘却してしまうので、調査を生業とする探偵には適した資質ともいえる。そして、厄介の依頼を受けた今日子は、短時間のうちにSDカードのありかに目星をつける。
ところが、犯人がコーヒーに入れた睡眠薬のために眠ってしまう。ちょっとしたうたた寝であっても、眠ってしまうと今日子は記憶がリセットされてしまうのだ。
目覚めた今日子は、依頼人である厄介に向かって開口一番、こう問いかける。
「初めまして。あなただれです?」
これまでの調査は無に帰した、と落胆する厄介であったが、今日子はしっかりと自身の弱点をカバーする対策を取っていた。
そのバックアップ方法とは――と紹介はここまでにしておくので、あとはマンガを手にとって確認してほしい。
本書は『化物語』、『めだかボックス』などの西尾維新のミステリ小説を『まおゆう魔王勇者』などを手がけた浅見ようが原作に忠実にコミカライズしたもの。
10月期からの連続TVドラマの放送(日本テレビ系列)とタイミングを合わせて出版されたかたちだ。
ドラマで掟上今日子を演じているのは新垣結衣。今日子の特徴的な髪の色やメガネを忠実に再現しているので、原作のイメージどおりのキャラクターになっているのはうれしいところだ。
ちなみに、TVドラマではSDカードの隠し場所は原作とは違う場所だった。
隠し場所のヒントが映像でさりげなく提示できたりもしていたので、個人的にはこの改変はOKである。
メディアミックスされた作品の場合、それぞれの媒体を比較するのも楽しいので、マンガを読まれた方は、小説やドラマにも手を伸ばしてみてほしい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。『本格ミステリベスト10』(原書房)にてミステリコミックの年間レビューを担当。最近では「名探偵コナンMOOK 探偵少女」(小学館)にコラムを執筆。