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今回紹介するのは、『金田一少年の事件簿R』
『金田一少年の事件簿R』 第10巻
天樹征丸(作) さとうふみや(画) 講談社 ¥429+税
(2016年8月17日発売)
『金田一少年の事件簿』――と、聞いて「懐かしい!」と思った方も多いだろう。
横溝正史が生みだした名探偵・金田一耕助の孫という設定の高校生・金田一一(きんだいち・はじめ)が、「雪夜叉」、「放課後の魔術師」といった異名を持つ「怪人」たちの引きおこす連続殺人事件に挑むミステリコミック『金田一少年の事件簿』が「週刊少年マガジン」で連載開始されたのは1992年なので、じつに前世紀の出来事ということになる。
連載は2000年にいったん終了するものの、その後も不定期に連載され、2012年の〈20周年記念シリーズ〉と銘打った1年間の連載を経て、2013年から『金田一少年の事件簿R(リターンズ)』として復活した。
名探偵・金田一一の脇を固めるのは、幼なじみで同級生の七瀬美雪、警視庁の明智警視、剣持警部、そして一の宿敵である「地獄の傀儡師」高遠遥一といったおなじみの顔ぶれだ。
さて、第10巻のメインになるのは「黒霊ホテル殺人事件」。
人気アイドル・速水玲香に誘われて、一と美雪はアルバイトのため映画の撮影現場にやってきた。ロケ地は、箱根にある「黒稜ホテル」旧館。怪奇現象が頻発するという、このホテルでの撮影中に、シャンデリアが落下して、主演女優が圧死。
さらに、監督の部屋を訪ねようとしたプロデューサーが、ドアノブに仕掛けられた毒針で死亡。
こうした連続殺人事件の裏で暗躍する「黒い悪霊」の正体を、金田一一は見抜いて、こう宣言する――「謎はすべて解けた…!」(このように名探偵が決めゼリフを言うフォーマットを確立させたのも『金田一少年の事件簿』だ)。
何かが起こりそうな舞台、そのなかで発生する連続殺人、謎に挑む素人探偵、そして意外な真犯人……というふうに本格ミステリのガジェットを、これでもかと詰めこんだのが『金田一少年の事件簿』で、その過剰さが読者にインパクトを与え、圧倒的な支持を得たのだといえよう。
そして、『金田一少年の事件簿』の特徴といえば、犯行の裏側には「過去の哀しい事件」があった、という設定だろう。「黒霊ホテル殺人事件」でも、犯人は犯行動機を切々と語る。
このあたりは『金田一少年』の後進作でありながら、犯人の告白場面はさらりと流す、青山剛昌『名探偵コナン』とは好対照で、そうした読み比べもまたおもしろいのではないだろうか。
なお、第10巻には、「黒霊ホテル殺人事件」に加えて、第9巻から続く「ソムリエ明智健悟の事件簿」と、第11巻へと続く「白蛇蔵殺人事件」が第2話まで収録されている。
ちなみに、明智健悟警視は『金田一少年の事件簿』の連載当初は、嫌味なやられ役であったが、その後人気が出てきて(美形だからか?)『明智少年の華麗なる事件簿』、『明智警視の優雅なる事件簿』といった短編集がまとめられ、さらには『金田一少年』の世界を飛びだして、『明智警部の事件簿』(作画:佐藤友生)といったスピンオフ作品が生まれるまでになった。
こうしたキャラクターの変遷が味わえるのも、長期の連載作品ならではの楽しみといえようか。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。、「ミステリマガジン」(早川書房)にてミステリコミック評担当(隔月)。「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)でミステリコミックの年間レビューを担当。