日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『健康で文化的な最低限度の生活』
『健康で文化的な最低限度の生活』 第4巻
柏木ハルコ 小学館 ¥552+税
(2016年8月30日発売)
何かと話題になる「生活保護」を、新米ケースワーカー・義経えみるの視点から、リアルに掘りさげた社会派作品の4巻目。
前巻から、「扶養照会」のケースが登場している。
26歳、うつを患いホームレスとなっていた島岡光(しまおか・こう)を担当する、えみる。
生活保護支給の調査のため、父親に確認する必要があったが、なぜかかたくなに拒む光は、自ら破滅的な行動に出てしまう。
担当した人に自殺された経験もあり(第1巻参照)、激しく動揺するえみるだったが、上司の半田たちの助言を受け、話しあうことに。
しかし、判明したのは想定よりもさらにおぞましい家族の実像だった。
病院に任せるしかない案件かと思いきや、対象者の置かれた状況や身内について知っているケースワーカーだからこそ、守れる一線もある。
まさに、生活保護=「最後のセーフティネット」という事例だ。
光の行く先を考えると暗然たる気分になってしまうが、やはり天然気質のえみるの人徳は大きい。
仕事人としての足りなさが、大きな魅力になっている親しみやすい主人公。
彼女たちの支援で光が少しでも明るい道に行けるよう、願うばかりだ。
そんなえみるが、役所近くで声をかけたおばあちゃんの生活保護手続きを手助けしようとする。
しかし、そこで立ちはだかるのは「世帯」。こちらは前のケースと違い、よくある事例のようだ。
困っている家族同士の絆が、生活保護の制度の前では、かえってあだになってしまう。
好意ややる気が必ずしもいい方向へ働かない、そんな苦い「社会人あるある」の予感もするが、えみるらしく困っている人に寄りそえるか、相談者ともども見守っていきたい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。