365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月22日は孤児院の日。本日読むべきマンガは……。
『タイガーマスク』 第1巻
梶原一騎(作) 辻なおき(画) 講談社 ¥370+税
きょう9月22日は「孤児院の日」である。
1887年のこの日、当時岡山の医学生だった石井十次がひとりの孤児を引き取ったことに端を発し、孤児教育会(のちの岡山孤児院)を創設した。これが日本で最初の児童養護施設である。
生涯を孤児救済に捧げた十次は「児童福祉の父」と呼ばれたが、その最初の足跡がこの孤児教育会の設立であり、それを記念して今日は「孤児院の日」とされている。
さて、“孤児院”が作中にたびたび登場する作品といえば、梶原一騎の作品群だ。
彼が原作を手がけた『タイガーマスク』や『あしたのジョー』(高森朝雄名義)では、孤児や孤児院が描かれる。
このうち『タイガーマスク』の場合、主人公タイガーマスクの正体である伊達直人は孤児院「ちびっこハウス」の出身である。
幼少時に動物園の虎の檻の前でケンカしていたところを悪役レスラー養成機関「虎の穴」にスカウトされ、悪役レスラーとしてリングデビューした。
ファイトマネーを「ちびっこハウス」に寄付していたが、「虎の穴」への上納金が滞ったことにより、「虎の穴」から刺客が送りこまれるようになり、血で血を洗う凄惨なファイトに身を投じていくことになる。
伊達直人=タイガーマスクの自己犠牲の精神は多くの日本人の心に根を張り、現在でもクリスマスが近くなると、全国各地の児童養護施設に「伊達直人」や「タイガーマスク」名義で金品の寄付が寄せられている。
梶原作品にはよく孤児院が出てくるが、そもそも終戦直後の日本には、空襲で焼けだされた戦災孤児が非常に多かった。9歳で終戦を迎えた梶原にとって、救済を必要とする孤児があふれているのが、日本の日常的な風景だったのだろう。
『タイガーマスク』の場合、1967年に物語が始まる。アメリカでデビューしたタイガーマスクにとって、これが10年ぶりの帰国となった。
東京オリンピック(1964年)を契機にすっかり様変わりした東京を眺めて感慨に浸るタイガーであったが、しかし好景気に沸く世間とは対照的に、まるで時代に取り残されたような「ちびっこハウス」の窮状に直面する。
かつて日本には孤児があふれていた。そして豊かになった現在でも、全国にはおよそ2万5千人の孤児がいる。交通事故や自然災害など、理由はさまざまだろうが、決して少なくない数である。
「虎の穴」の刺客にたったひとりで立ち向かったタイガーマスクの勇姿を見ると、ぼくらもひとりの伊達直人として、何かできることがあるのではないか。タイガーの優しい瞳は、われわれの心に小さな勇気を灯してくれる。
ちなみに2016年10月1日より、テレビ朝日系列にてアニメ『タイガーマスクW』の放映がスタートする予定だ。
初代タイガーマスクの遺志を継いだ、現代のレスラーが活躍するらしい。こちらも要チェックである。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama