365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
10月2日は豆腐の日。本日読むべきマンガは……。
『増補改訂版 東京都北区赤羽』 第2巻
清野とおる 双葉社 ¥1,400+税
10月2日は「とう(10)」×「ふう(2)」で豆腐の日。「日本豆腐協会」が1993年に制定した。
豆腐のルーツは中国だが、日本でも古くから貴重な植物性タンパク源として庶民に親しまれてきた伝統食品。
日本豆腐協会によると「奈良時代から平安時代にかけて、遣唐使として中国に渡った僧や学者たちが、豆腐の作り方を教わって日本に持ちかえった」という説が有力とのこと。
家康の時代までは高価な食べものだったが、江戸中期以降は庶民のお茶の間にも登場。
今では海外の人たちにも「TOFU」とそのままの読みで健康食品として親しまれているのはご存じのとおりだ。
そんな豆腐の日に紹介したいのが『東京都北区赤羽』。
ドラマ化もされた清野とおるの代名詞的作品だが、Bbmfマガジン版の3巻(増補改訂版の2巻)に「路地裏の豆腐屋さん」というエピソードが収録されている。
まだ居酒屋「ちから」が健在だった時代、いつものように赤羽を散策していた清野が路地裏で目を留めたのが『美味しんぼ』のヒロイン・栗田さんが大きく描かれた豆腐屋の看板。いぶかしげに看板をながめる清野に「なんだい!?」と声をかけてきた70代の女性が磯崎浩子さんだった。
看板のことを聞いてみると、「出たんだよ!!」と威勢よくコミックスを取りだしてくる浩子さん。そう、彼女が経営する「みやこ豆腐」は『美味しんぼ』第7巻(第5話「大豆とにがり」)に実名で取りあげられたのだ。
のちに人気キャラとして定着する落語家・快楽亭ブラックの初登場回としても知られるこのエピソードは、豆腐料理専門店でのひと悶着から始まる。
山岡や栗田さんが懇意の落語家と豆腐料理を食べていると、カウンターで白人男性=ブラックが「これはトウフじゃない!!」と大騒ぎをしている。
ブラックは料理研究家で、『THE BOOK OF TOFU』という豆腐の本を出すほど豆腐に造詣が深いアメリカ人。
本場日本の豆腐を楽しみにしてやってきたのに、ひどいシロモノを食べさせられたと憤慨していたのだ。
怒り心頭なのはアメリカ人に難癖をつけられた豆腐料理屋の板さん。2人の怒りを鎮めるために、山岡は「みやこ豆腐」へ一行を連れていく。
無農薬栽培された国産大豆と地下水(奇跡の水)を使った自慢の豆腐は、添加物を使わず、丁寧に作られている。凝固剤も使わないため、大量生産はできないが(1日30丁前後)、そのぶん濃厚な味わいが楽しめる。「これが本物のトウフです!!」とニッコリのブラック、愕然とする板さん。
こんな調子で、終始「みやこ豆腐」絶賛のエピソードである。これを読んだら赤羽まで出かけたくなるが、店紹介がメインではない『美味しんぼ』なので、くわしい場所や電話番号は書いていない。
80年代はネットのない時代。一般読者が店の場所を特定することは困難だ。おそらく「みやこ豆腐」は、『美味しんぼ』で紹介された店とひと目でわかるよう、栗田さんのイラストをバーンと看板に掲げるようにしたのだろう。
それから20年近い時を経て清野に発見され、再びマンガというメディアに登場したというわけだ。
さて、とにかくパワフルでおしゃべりな浩子さんに気圧される清野だったが、いざ豆腐を食べてみると「今まで抱いていた豆腐の概念が覆る味だった」と悶絶。
すっかり常連となるのだが、買いにいくたびにおばちゃんのマシンガントークにつきあわされることになる。
このエピソードがコミックス第3巻(2010年1月発売)に掲載されて以降、『赤羽』ファンも聖地巡礼として訪れるようになっていたのだが、徐々に開店休業状態となり、2014年の夏には浩子さんが他界したことを清野がツイッターで発表した。
時は流れ、昨年(2015年)の暮れから今年(2016年)の頭にかけて、清野と浩子さんの交流を描いた「みやこ豆腐」の新エピソードが「漫画アクション」の連載『ウヒョッ!東京都北区赤羽』に掲載された。
浩子さんは病魔におかされながらも、なんとか「みやこ豆腐」の営業を再開しようとがんばっていたそうだ。
信念を貫き、“本物の豆腐”を作りつづけた浩子さんにあらためて脱帽だ。
<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。10月3日発売の『内村光良ぴあ』と、10月22日公開の『金メダル男』(内村光良監督)の劇場用プログラムに参加しております。