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9月14日は赤塚不二夫(漫画家)の誕生日 『おそ松くん』を読もう! 【きょうのマンガ】

2015/09/14


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。さて、本日読むべきマンガは……。

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『竹書房文庫 おそ松くん 完全版』第1巻
赤塚不二夫 竹書房 ¥600+税


1935(昭和10)年9月14日。
満州国に暮らすある一家に、6人兄弟の長男となる男児が誕生した。
厳格な父のもとで育ちながらも、日本へ帰国した後には不安定な漫画家の道を選び、苦労したすえ少女マンガと少年誌ギャグマンガをまたいで大成。「シェー!」など作中のギャグフレーズが流行語となり、バカボンのパパはじめ数々の人気キャラを世に送り出したその人物の名は……。
そう、赤塚不二夫である。

というわけで、本日は赤塚不二夫生誕80周年を記念して、赤塚作品を取り上げたい。
よく「ナンセンスギャグマンガの大御所」と紹介される赤塚だが、その形容は、一面的にとらえてはいけないところがある。登場人物が突飛な言動でドタバタするという表面ではなく、もっと根っこからナンセンス(無意味)なのだ。

たとえば、赤塚がギャグ漫画家としての基盤を築いた『おそ松くん』(1962~1967)を改めてひもといてみよう。
「ぼくらは六つ子のきょうだいです 右から……おそ松……一松 カラ松 チョロ松……まてよ? 左からだったかもしれないぞ……???」
(『おそ松くん』「あたまをまるめて家出をしよう!」より)

「主人公」であるはずの六つ子は、実の親にも見分けがつかない群体として描かれる。
さらに連載が進めばチビ太・イヤミ・デカパンなど魅力あふれるサブキャラクターたちに出番を食われて六つ子はどんどん背景に引っこんでいく。
また、そのイヤミたちも、ある話では教師だったのが別の話では駄菓子屋だったりと、エピソードごとに役柄が変わる。
どんなにキャラが立っていても同時に「だれでもなくなんでもない」、つまりナンセンスなのだ。

そしてすさまじいことに、赤塚はギャグがナンセンスであること自体までも無意味にする場合があった。
具体的には、『おそ松くん』屈指の名エピソード「オメガのジョーを消せ」を見ていただきたい(『赤塚不二夫名作選 おそ松くん』などに収録)。
ハタ坊が殺し屋、イヤミが大富豪となり、過去に犯した裏切りの代償をめぐって命を狙う者と狙われる者が対峙するハードボイルド極まるこの一編では、完全にギャグが副でサスペンスが主だ。
ナンセンスギャグマンガが意味のない空白ならば、その空白へ意味の強いドラマを流しこんでみてもええじゃないか、という大胆な転換がそこにはある。

無意味と意味を自由自在に行き来できる、それこそが赤塚マンガの真骨頂なのだ。

さて、そんな『おそ松くん』だが、10月から27年ぶりの(再々)アニメ化が予定されている。
タイトルは『おそ松さん』。なんと大人になった六つ子たちを描く後年譚だ。
公式サイトを見たところ、おそ松たちには櫻井孝宏・中村悠一・神谷浩史……と豪華声優陣がキャスティングされ、性格づけも一人ひとりはっきりしている様子。
没個性な群れの六つ子を個性あるものへ転換させる大胆なアプローチは、むしろそれこそ赤塚作品の精神にのっとっていると言えるかもしれない。

そうしたアニメ『おそ松さん』のおもしろみをはかるために、『おそ松くん』を今のうちに読んでおくのもよさそうだ。



<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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