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『新装版 パーマン』 第5巻 藤子・F・不二雄 【日刊マンガガイド】

2016/10/20


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『新装版 パーマン』


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『新装版 パーマン』 第5巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥429+税
(2016年9月28日発売)


ある日、宇宙人から「パーマンセット」をもらった小学生・須羽みつ夫は、パーマンになって大活躍!
6600倍の力、119キロの飛行能力、何よりブービー、パー子、パーやんといったパーマン仲間の力を得て、悪事に立ち向かっていく!

……という説明も不要なほど有名な、藤子・F・不二雄の代表作のひとつ『パーマン』。
『パーマン』誕生50周年を記念して刊行中の新装版てんとう虫コミックスの第5巻が出た。

この巻からは、1983年のカラーアニメ化をきっかけに連載された新作『パーマン』が収録されている。
旧作『パーマン』の連載が1966年~1968年なので、新作『パーマン』は前作終了から15年後に描かれたリメイクにあたる。
新作『パーマン』から現在まで30年以上が経過しているが、今の目で見て新作『パーマン』にはそれほど古さは感じられない。とにかく'68年から'83年の15年間での変化の大きさに驚かされるのだ。

旧作『パーマン』と新作『パーマン』はテイストがかなり違っており、それぞれ楽しめる。
旧作『パーマン』では、東西冷戦を下敷きにしたスパイ戦などが描かれることも多かった。“東側”を連想させる博士や組織なども登場し、「“鉄の棺桶”突破せよ」や「水爆とお月さま」といったシリアスな雰囲気のエピソードも目立つ(ともに第4巻収録)。

対して新作『パーマン』では、敵対する悪者も国内レベルに留められ、全日本悪者連盟(略称「全悪連」)や天才科学者・魔土災炎(まど・さいえん)、世紀の大泥棒・怪盗千面相などコメディ色が強調されたメンツになっている。
冒険活劇から日常コメディにシフトしているのだ。

みつ夫の部屋を新旧で見比べると、布団ではなくベッド、押入れではなく洋タンスと、生活様式が洋風に変化しているのが見て取れる。
大きな違いは、みつ夫の部屋にテレビがあることだろう。事件や事故などのニュースを得られるし、大好きなアイドル・星野スミレの活躍も見られる。
今でもテレビは巨大な影響力を持つが、80年代はより明確にテレビが話題の中心の時代だったのだ。

そしてこの第5巻では旧作時代からほのめかされていたものの、作中ではっきりと描写されたことがなかったパー子の正体が読者に明かされる!
パーマン仲間としては身近なパー子の正体が憧れのアイドル・星野スミレという設定で、みつ夫とパー子をめぐるラブコメ的なエピソードも展開され、じつに80年代テイストなのだ!
旧作の女優イメージからアイドルにポジションをスライドしているのも“現代”っぽい!

世間の目を気にせざるを得ないスミレにとって、パー子になっている間は自分の気持ちを素直に出せる貴重な時間。アイドルとパーマンの二重生活を楽しむスミレという設定は、一本立ちできそうなくらい魅力的だ。
ちなみにカン違いしている人も多いですが、パー子はパーマン2号ではなく3号なのでご注意を。2号はチンパンジーのブービーであります。

この巻では、ブービーにまつわる大きな疑問点も描かれている。
正体を知られてしまったパーマンは、バードマンの「細胞変換銃」で動物に変えられる規則なのだが、最初から動物であるブービーはどうなるのか? という「2号の正体がばれた」。
また、動物つながりだと、みつ夫が拾った子猫が腰が砕けるほどかわいい「動物巨大化スモーク」なども収録されている。

幽霊屋敷のような天才科学者・魔土災炎の研究所は、訪れるたびに大雨が降り雷が鳴り響いていたり、バラエティ番組のコメディそのもの!
今なお古さを感じさせない、80年代的な楽しさにあふれた作品だ。



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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