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『ともだちごっこ』 第1巻 山田デイジー 【日刊マンガガイド】

2016/11/23


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『ともだちごっこ』


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『ともだちごっこ』 第1巻
山田デイジー 幻冬舎 ¥630+税
(2016年9月24日発売)


少女マンガ誌で活躍してきた山田デイジー氏が、初めて青年誌で連載を持った『ともだちごっこ』。その単行本第1巻が発売中だ。

舞台は、名門女子校「聖ドロテア学園」。
そこは生徒たちの間に結ばれる友情を何より重んじる、気高き乙女の園である。
仲のよい生徒同士が花を贈りあい、2人1組の「親友(ブーケ)」となる。
さらにそのなかから、もっとも美しい友情を見せたペアが「女王(ラ・レーヌ)」の称号をえて、全校の導き手となる……そんなしきたりが存在する場所だ。

そこへ、ふいに時期はずれの転入生があらわれ、波乱を巻き起こす。 少女の名は、蜂谷たんぽぽ。 名前に似合ったおっとりした外見と物腰だが、それは人目をあざむくカムフラージュだった。

「―――――私は この学園の友情を許さない」

重々しくつぶやくたんぽぽは、自らが「女王」となるための計画をひそかに進める。
まず狙いをさだめたのは、「女王」有力候補と目されながらも「親友」を持っていない優等生・高峰百合。
百合の友人やまわりの生徒たちは、たんぽぽの吹きこむさりげない言葉に誘導され、勝手に疑念や裏切りの種を抱えこみ、人間関係にヒビが入っていく。
そのすきをついて、たんぽぽが百合を自分のパートナーにつける立ち回りが第1巻のおもな筋となる。
主人公の手練手管があまりに見事で、やっていることは悪魔的な行為なのに、どこか痛快。
それはおそらく、舞台となるお嬢様学校にひそむ空々しさがしっかり描きこまれているためだろう。

聖ドロテア学園には、2種類の生徒がいる。
幼稚園から一貫で学園に通い続けるエリート内部生と、途中入学の外部生である。
転入生のたんぽぽが百合をパートナーにして「女王」を目指すと公言した時、内部生は、外部生のたんぽぽにほとんど差別に近い反応をみせる。
友情の尊さをうたいながら、内部生と外部生の間にそれが成立しないと決めつける者たちの、圧迫的な空気。

たんぽぽは、そんな学園の「親友」制度を幼稚な「ともだちごっこ」と看破する。
そんなものは否定し、すべて枯らしつくして、残った自分が「女王」になってやると。
第1巻の時点では、たんぽぽ自身の詳しい事情は明らかになっていないが、彼女は体制への挑戦者として応援に値するヒロイズムを備えているように見受けられる。

こうした内容をふまえるに、本作はいわゆる「百合」へのアンチというわけではないように思う。
「百合」の定義は難しいが、ひとまず「特定の少女同士が特別で濃密な関係を結ぶさま」くらいにいっておこう。

たんぽぽと高峰百合の関係はたしかに、策略と計算によって結ばれた偽装パートナー。
ほかの「親友」たちのような、情がらみで明るく甘いものではない。
……が、差別構造にあぐらをかいた偽善・欺瞞・浅薄さがないという意味では、学園内でもっともいさぎよく、真に迫った関係ともいえる。そう、“特別で濃密な関係”だ。
つまり、たんぽぽがやっているのはヌルい「百合」もどきを駆逐してハードコアな「百合」をサバイバルさせる剪定作業といえないだろうか。

いったんの否定をぶつけて真に近づく「百合」……これはアンチ「百合」ではない、アウフヘーベン「百合」だ!



<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7

単行本情報

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