イケメン揃いの独身寮で繰り広げられる、リーマンBLラブコメ
『ホームレス・サラリーマン』第1巻
今市子 芳文社 ¥600+税
(2014年7月29日発売)
男と男が、それこそ男と女のように、当たり前のように意識し合って、好き合う。または、やはり男と男は踏み込めないものだという通念があって、好きになってしまったことや寝てしまったことに、思い悩む。BL作品とひと口に言っても、その前提や設定はいろいろだ。
では、今市子の作品はどうだろうか。そのどちらでもあって、どちらでもないというのが答えだ。
本作『ホームレス・サラリーマン』は、「ワケ有リーマンBLラブコメ★」が謳い文句。
1巻帯には「元・サラリーマカン=現・独身寮の管理人さんは年下リーマンにご執心(黒ベタハート)」とあり、男性はもちろん、女性でも苦手な人は振り落とされてしまうかもしれないが、それだけでくくれる作品でもない。
その名前を噛むことなく言ってもったことがない、サラリーマンの各務ヶ原太一(かがみがはらたいち)。
京都に出張中だった彼は、彼が暮らしている会社の独身寮が、火事で燃えてしまったという電話を受け取る。各務ヶ原は会社に戻るなり、火の元に気をつけてないからだと後輩たちを叱り付けるが、出火原因は煙草の不始末で、寮で煙草を吸うのは各務ヶ原だけ。
彼は責任を取って会社を辞め、寮の居住者たちに用意された会社のアパートで、管理人を務めることになる。
そのアパートの新居住者が、系列不動産会社の営業マンである「ゴッキー」こと後藤雅俊。
彼を見て、驚く太一。酔った勢いで男と抱き合い、起きてみれば2人ともベッドで全裸だったということがあった。その相手が、後藤!
明るく屈託ない後藤に、今さら何があったかを訊けない各務ヶ原。
一方、各務ヶ原を下の名前で「太一」と呼ぶ、中年ながら独身のイケメン部長・長森を見て、寮の仲間たちは長森と各務ヶ原の関係を怪しみ……。
お膳立てされた要素はいかにもBL的だが、それをことごとく裏切るのが本作でもある。
後藤、長森、そして各務ヶ原には、それぞれ裏事情と秘密があり、それはBL的要素を否定するものでもあるのだ。
危ない一夜、同居、怪しい関係。しかし、それはあくまで「引き」である。
BL好きの読者にとっての「引き」でもあるが、決して男好きではない各務ヶ原が、まわりの男たちと向かい合い、結果として相手の魅力を知り、惹かれていくための「引き」でもある。
本作は、男が男に惹かれていくということを、よりコミカルに、よりディープに見つめたドラマなのだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。