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12月10日は「ノーベル賞」の授賞式 『アイデン&ティティ』を読もう! 【きょうのマンガ】

2016/12/10


365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。

12月10日はノーベル賞授賞式。本日読むべきマンガは……。


IDENandTITY_s

『アイデン&ティティ』
みうらじゅん 青林堂 ¥1,165+税


12月10日は、アルフレッド・ノーベルの忌日(1896年)にちなんで、ノーベル賞の授賞式が毎年スウェーデンのストックホルムで行われている(平和賞のみノルウェーのオスロ)。

今年(2016年)の話題は、なんといっても文学賞を受賞したボブ・ディラン。
長らく候補にあがっているとはささやかれていたが、作家ではなく、ミュージシャンである彼の受賞は、世界を驚かせることになった。
「アメリカの輝かしい楽曲の伝統のなかで、新たな詩的表現を生み出してきたこと」がおもな受賞理由とのこと。歌詞は文学足りえるということだろう。

そのボブ・ディラン、ノーベル賞などどこ吹く風で、「先約があるから」と授賞式は欠席するという。
いやはや、最高ですね。できれば女に会いに行くとか、腐れ縁の友人と飲むとか、そんな理由であってほしい。

ボブ・ディランの功績をここでダラダラと並べるのは、とんでもない長文になるのでヤメておく。
そのかわりに紹介したいのが、ボブ・ディランの大ファンで知られる、みうらじゅんの『アイデン&ティティ』だ。
「漫画家・みうらじゅん」にとっての代表作といっていいだろう。2003年には峯田和伸の主演で映画化もされている。

舞台となるのは1990年前後の東京。主人公はバンドブームに乗ってメジャーデビューを決めたSPEED WAYのギタリスト・中島だ。
物語はバンドの練習を終えて高円寺のボロアパートに帰った中島の前に、突如、ボブ・ディランが現れるという、トンデモ展開からスタートする。

以降、下火になっていく一方のバンドブームと、まだまだロックバンドで金儲けをしようと企む大人たちの思惑に翻弄される中島が、“本当のロック”を求めて葛藤し、もがき苦しむ様が描かれる。
ボブ・ディランは中島が苦悩するたびに現れ、プヒ~プヒ~♪とハーモニカを鳴らしながら、このたびノーベル文学賞をゲットした数々の名曲を歌い上げるのだ。

本作は、みうら自身のバンドブーム体験が強固なベースになっている。
1989年にスタートし、バンドブームを牽引した「イカ天(=『三宅裕司のいかすバンド天国』)」に、みうらは漫画家の喜国雅彦らとバンド“大島渚”で出演、「カリフォルニアの青いバカ」という迷曲で視聴者のドギモを抜いてみせた。
大島渚は大人気になり、2枚のアルバムをリリースするが、直後に訪れるバンドブームの終焉を目の当たりにする。

そのイカ天に同じく出演し、これまた視聴者のドギモを抜いたハードロックバンド“人間椅子”のギタリスト・和嶋慎治が中島のモデルである。

イカ天の影響もあり、1991年には歴代最高となる510組ものバンドがメジャーデビューしたが、そのほとんどが何年も持たずに解散している。
結局のところ当時バンドに熱狂した連中のほとんどは、ロックではなくブームに夢中になっていたにすぎないのだ。

中島にはボブ・ディランの存在を教えてくれたクールな彼女がいる(名前不詳・映画版では麻生久美子が好演)。その彼女が中島にこう投げかける。
「君が何を伝えたいのか? が問題よ」。

答えはじつにシンプルだ。しかし、中島は迷走に迷走を重ね、転がり続ける。
いつ読んでも胸がチクチクする普遍的な青春譚だ。



<文・奈良崎コロスケ>
中野ブロードウェイの真横に在住。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。

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