日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『青木雄二 傑作漫画作品集 50億円の約束手形』
『このマンガがすごい!comics 青木雄二 傑作漫画作品集 50億円の約束手形』
青木雄二 秋田書店 ¥590+税
(2017年1月18日発売)
累計1000万部を記録し、何度も実写化されている人気マンガ『ナニワ金融道』。
お金と人生との密接な関わり、そして人間の本質に迫る哲学的な内容が人気を博した青木雄二の代表作だ。
そんな『ナニワ金融道』の原点ともいうべき短編作を収録した作品集が発売された。
それが『青木雄二 傑作漫画作品集 約束手形』である。
本作に収録されている8つの短編のテーマは、やはりお金。
いずれの作品も、青木雄二が追い求めてきた「お金と人間」というものにフォーカスをあてている。
たとえば、表題作「50億円の約束手形」で描かれるのは、うだつのあがらないサラリーマンが50億円の手形を拾ったことで浮き彫りになる人間模様だ。
手形を拾い舞い上がる主人公、それまでと態度を一変する妻や娘、1千万円の横流しを約束させる警察官……。
どの登場人物も、大金を前にしたことで「人生が拓(ひら)けた」と有頂天になってしまう。
しかし、人生はそんなに甘いものではない。彼らを待つのは、残酷ともいえる展開。
これもまた、青木作品ならではだ。
そのほかの作品も、けっして後味がいいとは言えない。むしろ、虚しさすら感じさせる。
しかし、それこそが人生の本質ではないだろうか。
思いどおりにいかないからこそ、人はあがくのだ。
そして青木は、そのあがく様にある種の美学を見出しているのかもしれない。
決してカッコよくはないし、希望に満ちあふれているわけでもない。
そんな登場人物たちの人生の一片をのぞき見ることができる本作。
これに共感するのか、あるいは反面教師とするか、それは読み手しだいだろう。
<文・五十嵐 大>
83年生まれの、引きこもり系フリーライター。デスゲーム系やバトルもの、胸キュン必至の恋愛マンガやBLまで嗜む、マンガ好きです。マイブームは、マンガ飯の再現。