日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『プリニウス』
『プリニウス』 第5巻
ヤマザキマリ/とり・みき 新潮社 ¥680+税
(2017年2月9日発売)
マンガ好きはもとより、歴史・文化人類学ファンをも巻きこんで話題沸騰中。
ヤマザキマリととり・みきによる異例のコラボ作品『プリニウス』の最新刊が出た。
謎の風来坊・ラルキウスの冒険譚に刺激を受けたプリニウスは、好奇心のおもむくまま、アフリカへの旅を決意。大地震からの復興を急ぐポンペイをあとにして、プリニウス一行は船上の人となる。
舞台がローマを離れたことで、古代ローマならではの風俗描写や愛憎渦巻く政治・人間ドラマ要素を楽しみにしていた人には「退屈な巻となるか?」と思いきや、さにあらん。
人ならざるかたちをしたエチオピアの種族やウミウサギなどの奇妙な生物、船のマストに現れる謎の炎、大嵐の時に海賊に襲われた難破船、黒い髪に浅黒い肌のカラス使いの少年、そして火の神の化身のようにすさまじくも美しい火山噴火――など、科学も非科学も、現実も超現実も超越した、怪しくも魅惑的な『プリニウス』ならではの世界が次々に描かれてゆくさまには、おもわずうっとり。
「過去」である古代ローマの世界をマニアックにいきいきと描きながらも、私たちの生きる「現在と未来」を照射する、SF的ともいえるグローバルなまなざしも、『プリニウス』のほかでもない魅力。
本巻でもポンペイのエピソードで、選挙のため暴言・暴挙をブチかますトランプそっくりの政治家に対して、対立する女性権力者が「でも民衆というのはわかりやすい奉仕をする者にはついていきますからね」なんていったりするくだりには、失笑しつつ、人間ってやつは2000年前から変わってないのか……と、あらためて愕然とせずにいられない。
次巻冒頭はまた、ローマ中央政界のドロドロした人間模様から始まるそうで、まだまだ目が離せない!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69